ドクターズアイ 小堀善友(泌尿器)

淋病の新規抗菌薬承認で「治療の転換期」へ

Zoliflodacin、gepotidacinが示す未来

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研究の背景:薬剤耐性淋菌という世界的脅威

 性感染症を診察したことがなくても、「淋菌」や「クラミジア」なんて病名を耳にしない読者の先生方はいないだろう。これらは、尿道炎や子宮頸管炎を起こす主な細菌で、性感染症の大多数はこれらが原因と考えていただいてもよい。性病の原因菌である淋菌が、とんでもない状況にあることをご存じだろうか?

 淋菌感染症(淋病)は、抗菌薬耐性を極めて獲得しやすい性感染症として知られている。過去にはペニシリン、テトラサイクリン、ニューキノロン、マクロライドなどが治療に用いられていたが、いずれも短期間で耐性が拡大し、現在では世界的に第三世代セフェム系抗菌薬、特にセフトリアキソンが治療の中心となっている。

 しかし、この「治療の切り札」とされてきたセフトリアキソンに対する耐性が22年から2024年にかけて拡大し、耐性株の検出が世界各国で報告されている。世界的には、セフトリアキソン耐性例や広範囲薬剤耐性(XDR)淋菌の報告もあることから、それらの抗菌薬耐性淋菌は「スーパー淋菌」とも呼ばれ、「今の治療がいつまでも通用しない」ことの現実味が帯びている。名前こそカッコいいが、「スーパー淋菌」は人類を滅ぼしかねない恐ろしい性病なのだ。

 そのような状況に鑑みて、世界保健機関(WHO)は細菌優先病原体リスト(Bacterial Priority Pathogens List;BPPL )で薬剤耐性淋菌を「高い優先度」に、米疾病対策センター(CDC)は2019 Antibiotic Resistance Threats Reportで「重大な脅威」に、それぞれ位置付けた。特に問題となるのが咽頭の感染が完治しにくい点で、無症候で感染拡大する可能性があるということだ。日本の『性感染症診断・治療ガイドライン』でも、咽頭感染に推奨できる治療としてセフトリアキソン1g単回投与が示されているが、それ以外の選択肢がない現状である。

 このような状況から、既存抗菌薬とは交差耐性を起こしにくい異なる作用機序を有する新規治療薬の開発、さらに注射薬に依存しない経口治療薬の選択肢の拡充が、国際的に強く求められてきた。

 昨年(2025年)12月、米食品医薬品局(FDA)は淋菌感染症(gonorrhea)に対する新規経口抗菌薬zoliflodacin(米国での商品名:Nuzolvence)とgepotidacin(同Blujepa)を相次いで承認した。

 今回紹介するのは、zoliflodacinの第Ⅲ相臨床試験(Lancet 2026; 407: 147-160)、gepotidacinの第Ⅲ相臨床試験(Lancet 2025; 405: 1608-1620)である。

小堀 善友(こぼり よしとも)

プライベートケアクリニック東京 東京院院長

2001年、金沢大学医学部卒業。金沢大学泌尿器科、米・イリノイ大学シカゴ校泌尿器科、獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科准教授を経て、2021年より現職。日本泌尿器科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本性機能学会専門医、日本性感染症学会認定医、日本性科学会セックス・セラピスト。著書に『オトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)、『妊活カップルのためのオトコ学』(メディカルトリビューン)、『今日の診断指針第8版「男子性発育の異常」』(医学書院)など。

小堀 善友
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