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水道水のリチウム濃度が自殺率に関係―大分大

 2013年07月29日 10:30

 電池の原料として有名な金属リチウムは、そう病や双極性障害(そううつ病)の治療薬にも使われているほか、自然界にも存在しており、水道水にも微量に含まれるという。米テキサス州の水道水のリチウム濃度が高い地域では、低い地域に比べて精神科病院への入院率や自殺率が低いことなどが報告されている。大分大学医学部の石井啓義医師(精神神経医学)は、同県内などで行った調査でも水道水のリチウム濃度が高いと自殺率が下がることが分かったと、第10回日本うつ病学会総会(7月19~20日、北九州市)で発表した。現在、対象地域を日本全国の全市町村に広げ、さらなる検討を行っているという。

米調査では殺人や強姦、強盗なども低下

 2012年は年間自殺者数が15年ぶりに3万人を下回ったものの、わが国の自殺者数は依然として多く、世界でも上位に入っている。さまざまな自殺予防対策が講じられる中、石井氏らは水道水という最も身近な存在に着目した。

 その背景には、1990年代にテキサス州で行われた研究がある。この研究では、水道水リチウム濃度が低濃度(水1リットル当たり0~10マイクログラム)と中濃度(同13~60マイクログラム)の地域では、高濃度(同70~16マイクログラム)の地域に比べて殺人、自殺、強姦、強盗、窃盗の発生率が顕著に高かったと報告している(「Biological Trace Element Research」1990; 25: 105-113)。

 そこで石井氏らは、大分県内の冷泉(25度以下の温泉)に湯治目的で訪れた人たちを対象に、リチウム濃度と精神症状などについて検討を実施。その結果、温泉水を飲んだ後に血液中のリチウム濃度が上昇することや、抑うつ気分や不安感などの精神症状が改善すること、血液中のリチウム濃度が上がると神経細胞の成長に関わる「BDNF」というタンパク質の濃度が上がることが分かったという。

九州全域では結果にばらつき

 次に石井氏らは、2006年に県内18市町村(大分市内26カ所および市外53カ所)の水道水のリチウム濃度を調査し、2002~06年の対象地域の自殺率(標準化死亡比)との関連について検討した。

 その結果、リチウム濃度が高いほど自殺率が下がり、リチウム濃度が低いほど自殺率が上がることが認められ(「British Journal of Psychiatry」2009; 194: 464-465)、微量のリチウムを摂取することが自殺予防に有効な可能性が示された(「Medical Hypotheses」2009; 73: 811-812)。

 さらに、社会経済や医療、気象などの要因も考慮し、対象地域を大分県から沖縄県を含む九州全域に広げて検討したところ、大分、佐賀、長崎の各県では上記と同じ結果が示されたが、他の5県では水道水のリチウム濃度と自殺率の関連は確認されなかった。

対象地域を全国に広げさらなる研究へ

 なぜ、対象地域によって結果にばらつきが出たのか。石井氏が紹介した海外の2つの調査でも、これと似たような結果が得られている。

 オーストラリアでの研究では、飲料水中のリチウム濃度が水1リットル当たり10マイクログラム増加するごとに自殺率が7.2%低下することが示唆された一方(「British Journal of Psychiatry」2011; 198: 346-350)、英東部を対象とした別の研究では、水道水のリチウム濃度と自殺率(標準化死亡比)に関連が確認されなかった(「Britsh Journal of Psychiatry」2011; 198: 406-407)。

 こうした海外の報告からも、石井氏らの研究にはさらなる検討が求められる。現在、対象を日本全国の全787市町村に広げて調査を進めており、これまで採取した274市町の水道水サンプルを解析しているという。

 地域に限定的とはいえ、水道水のリチウム濃度と自殺率の関連が認められたことについては「リチウムの、衝動性や攻撃性を和らげる作用が影響しているのではないか」と推察している。

(編集部)

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