アルコール性肝障害の最先端 （Current concept of alcoholic liver disease）

　過度の飲酒による健康被害は世界的にも問題視され、さまざまな対策が模索されている。代表例ともいえるアルコール性肝障害（ALD）のスペクトラムは、アルコール性脂肪肝から脂肪性肝炎、線維症、肝硬変にまで及ぶ。治療はアルコール摂取量の管理や栄養療法などが中心で、薬物療法では重症肝硬変患者に対するステロイド療法に一定の有効性が認められるものの、長期予後の改善には繋がらない場面も少なくない。また、その病態も免疫細胞、脂肪組織、遺伝的多様性の関与が明らかになっているが、詳細な分子機構は解明されていない。本セッションでは、ALDの病因や新たな治療法を探求する3演題が取り上げられる。

発症機序に迫る斬新な知見を報告

　最初に登壇するWon-Il Jeong氏は、ALDの発症機序における肝細胞と肝星細胞のインタラクションに焦点を当てる。肝細胞が分泌するグルタミン酸は、その代謝型受容体mGluR5を介して肝星細胞の内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロール（2-AG）産生を刺激。肝細胞のカンナビノイド受容体CB₁Rが活性化され、脂肪合成が促される（図）。司会の池嶋健一氏は「CB₁Rと脂質代謝の関係に2-AGという肝星細胞が産生する物質が介在し、細胞間の相互作用が病態進展に関与していることを明らかにされており、新たな治療戦略にも繋がりうるユニークな研究」と指摘する。

　続いて登壇する疋田隼人氏は、近年、非アルコール性脂肪性肝疾患（NAFLD）への関与が精力的に検討されているオートファジー抑制とALDとの関連を検討。過去に大阪大学消化器内科などの研究グループがNAFLD発症との関係を明らかにしたオートファジー抑制蛋白質Rubiconに着目し、ALDにおけるRubiconとは独立したオートファジー抑制の機序を明らかにする。「ALDとNAFLDの発症機序にはともにオートファジーが関与しているが、その分子機構に相違点を見出されており興味深い。今後、脂肪肝炎のより良い治療法を考案していく上でも意義深い報告と思われる」と池嶋氏は話す。

新たな治療選択肢になりうるアフェレーシス療法の検討も

　Jeong氏、疋田氏の基礎的アプローチに対して、中本伸宏氏は、2004〜08年に自施設で検証した重症型アルコール性肝炎（SAH）患者に対する顆粒球・単球アフェレーシス療法（GMA）の有効性に関する臨床研究データを報告する。SAHに対してはステロイド療法が標準治療であるが、奏効しない場合は肝移植も考慮される。しかし、日本では脳死肝移植の施行例が極めて少なく、生体肝移植も条件が限られることから、SAH患者に肝移植を行えるケースは極めて少ない。そのため、「GMAの有効性および安全性が証明できれば、ステロイド抵抗性のSAH患者にとって朗報といえるだろう」と池嶋氏は期待を寄せる。

　同氏によると、アルコール問題と向き合う難しさなどから、わが国でALDの臨床や研究に精力的に取り組んでいる医師は少ないという。一方、本セッションで示される研究のように、国内外でさまざまな価値ある業績が積み重ねられているのも事実である。「ぜひ、1人でも多くの先生方が本セッションに参加し、積極的に討論を繰り広げていただきたい」と池嶋氏は呼びかけている。