マイクロバイオータ（腸内細菌）と全身疾患

消化器関連疾患における腸内細菌叢の最新知見が一堂に

　歯周病の原因菌として知られるFusobacteriumについて、馬場祥史氏はこれまでに大腸がんの予後との関連を報告している。今回は、熊本大学のコホートを用いた予後の検討をはじめ、食道がんの悪性度や術前化学療法の治療効果などについても最新知見を報告する。

　過敏性腸症候群（IBS）患者では、うつや心身症の併発など腸脳相関の病態を呈する場合が多い。福土審氏は、ストレスなどが腸内細菌叢の組成を変容させてIBSの病態形成に寄与していること、プロバイオティクス投与でうつ症状の改善効果が得られることなどを報告する。内藤裕二氏は、腸内細菌叢に影響を及ぼす薬剤と食品に関する検討結果を提示する。

　大腸がんでは、検診などで早期診断を可能とする手法が待望されている。そこで長山聡氏は、大腸がん患者における腸内細菌叢解析に基づき、機械学習アルゴリズムにより構築した大腸がん診断モデルの有用性について報告する。

　腸内細菌叢はこうした消化管疾患だけでなく、肝胆膵疾患との関連も明らかになりつつある。結束貴臣氏は、腸内細菌叢や腸管透過性を標的としたFusobacterium投与が、肝臓の抗脂肪化、抗炎症、抗線維化などの作用機序を介し、NAFLD／NASHに効果を発揮するとの世界初の知見を報告。飯田宗穂氏は、C型慢性肝炎由来肝細胞がん患者の便を移植したマウスの検討から、腸内細菌叢中Enterococcus faecalisと肝発がんの関係を報告する。中本伸宏氏は、現時点で肝移植以外に有効な治療法がない原発性硬化性胆管炎と腸内細菌叢の関連について、ヒトフローラ化マウスを用いた検討結果などを提示する。

　司会の安藤氏も演者として、自施設におけるIBD患者に対する糞便移植の現況と今後の展望について解説する。

　腸内細菌叢をめぐる研究について、安藤氏は「消化器疾患だけでなく、うつ病や自閉スペクトラム症、生活習慣病との関連など、世界規模でさまざまな研究が進行している。全身性疾患などにも予想を超えたレベルで影響を及ぼすことが明らかにされつつあり、全ての医療者にとって目が離せない研究領域だ」と強調する。

　同氏は、腸内細菌叢と多様な病態との関連に関心を寄せる全ての医療従事者に対し、「当セッションが腸内細菌叢研究に関心を持つきっかけや、臨床研究のヒントにつながれば」と参加を呼びかけている。