四肢骨折の血栓予防にアスピリン

低分子量ヘパリンに非劣性

2023年01月24日 17:34

© Adobe Stock ※画像はイメージです

　骨折患者の血栓予防には低分子量ヘパリンが推奨されているが、その効果をアスピリンと直接比較したエビデンスは限られる。米・University of Maryland School of MedicineのRobert V. O'Toole氏らは、整形外科的外傷による四肢骨折で手術を受けた患者または手術の有無を問わず骨盤・寛骨臼を骨折した患者を対象に、血栓予防効果における低分子量ヘパリンに対するアスピリンの非劣性を検証する多施設非盲検ランダム化試験PREVENT CLOTを実施。90日間の全死亡で低分子量ヘパリンに対するアスピリンの非劣性が示され、非致死的肺塞栓症（PE）と深部静脈血栓症（DVT）の発生頻度は両群ともに低かったと、N Engl J Med（2023; 388: 203-213）で報告した。

北米21施設が参加、四肢骨折1万2,211例が対象

　同試験には、米国とカナダの外傷センター21施設が参加した。年齢18歳以上の股関節から中足部までの下肢または肩から手首までの上肢の骨折を有する1万2,211例（平均年齢±標準偏差44.6±17.8歳、男性 62.2%）を、入院中にアスピリンを投与する群（81mg、1日2回、6,101例）または低分子量ヘパリンのエノキサパリン皮下注を投与する群（30mg、1日2回、6,110例）にランダムに割り付けた。

　入院中に行った血栓予防治療の回数は平均8.8±10.6回、退院時に21日分（中央値）の血栓予防薬を処方し、退院後は各施設の臨床プロトコルに従って血栓予防治療を継続した。

　主要評価項目は退院後90日間の全死亡、副次評価項目は90日間の原因別死亡とし、安全性評価も行った。

90日間全死亡の優越性は示されず

　Intention-to-treat解析を行ったところ、90日間の追跡期間中にアスピリン群の47例（0.78%）、低分子量ヘパリン群の45例（0.73%）が死亡〔群間差0.05%ポイント、96.2%CI −0.27〜0.38〕。90日間の全死亡において、低分子量ヘパリン群に対するアスピリン群の非劣性が示された（非劣性マージン0.75%ポイント、P＜0.001）。一方、優越性は示されなかった（P＝0.63）。

　90日間のPE関連死発生率はアスピリン群で0.07%、低分子量ヘパリン群で0.08%（群間差－0.02%ポイント、95%CI －0.12～0.08％ポイント）、PE非関連死はそれぞれ0.49%、0.52%（同－0.03％ポイント、－0.28～0.22％ポイント）で、群間差は同程度だった。

出血性合併症や重篤な有害事象も差なし

　90日間の非致死的PE発生率はアスピリン群で1.49%、低分子量ヘパリン群でも1.49%（群間差0.00%ポイント、95%CI －0.43～0.43％ポイント）と両群で低かった。また、90日間のDVT発生率はアスピリン群で2.51%、低分子量ヘパリン群で1.71%（同0.80％ポイント、0.28～1.31％ポイント）とこちらも両群で低かった。

　安全性評価では、出血性合併症発生率がアスピリン群で13.72%、低分子量ヘパリン群で14.27%と両群に差はなかった（群間差－0.54%ポイント、95%CI －1.78～0.69％ポイント）。創合併症はそれぞれ0.13%、0.23%（同－0.10、－0.25～0.05％ポイント）、深部手術部位感染症はそれぞれ1.73%、1.55%（同0.18、－0.28～0.64％ポイント）であった他、重篤な有害事象の発生頻度についても両群に差はなかった。

　以上から、O'Toole氏らは「整形外傷的外傷による四肢骨折で手術を受けた患者または骨盤・寛骨臼骨折患者の血栓予防において、低分子量ヘパリンに対するアスピリンの非劣性が示された。安価で、投与の負担が少ないという理由から、低分子量ヘパリンよりもアスピリンが支持される」と結論している。

（菅野守）