PCSK9が乾癬の発症に関与か

英・メンデルランダム化解析

2023年02月06日 17:40

　英・University of ManchesterのSizheng S. Zhao氏らは、メンデルランダム化（Mendelian Randomization；MR）解析の結果、前駆蛋白質転換酵素サブチリシン／ケキシン9型（PCSK9）阻害と乾癬発症リスク低下との関連を認めた、とJAMA Dermatology (2023年1月25日オンライン版)に報告した。

バイアスの少ない観察研究による因果関係の推論

　脂質代謝経路は乾癬の発症に関係するといわれており、スタチンなどの脂質低下薬は疾患修飾特性を有するとの仮説もある。しかし、大規模な一般住民ベース研究のエビデンスは乏しく、従来の観察研究では交絡因子が存在するため、因果関係の解釈は難しい。

　Zhao氏らは、3種の脂質低下薬の標的が遺伝子変異により代用阻害（genetically proxied inhibition）されている患者のデータを用い、乾癬発症リスクとの因果関係を調べるMR解析を実施した。

　MR解析とは、一塩基多型（SNP）のデータを用いて患者をランダム化する観察研究の一種である。遺伝子多型は環境要因の影響を受けず、メンデルの法則に従ってランダムに割り付けられるため、従来の観察研究に含まれる交絡因子や選択バイアス、報告バイアスなどを回避でき、観察研究データから因果関係の推論が可能とされている。

脂質低下薬の標的を曝露因子に

　今回Zhao氏らが施行したのは、2サンプルメンデルランダム化解析と呼ばれるもので、実施期間は2022年8～10月。英国のUK BiobankとフィンランドのFinnGenの乾癬研究における、一般住民レベルのゲノムワイド関連解析（GWAS）データおよびGlobal Lipids Genetics ConsortiumによるLDLコレステロール（LDL-C）データを用いた。

　スタチンの標的であるHMG-CoA還元酵素（HMGCR）、エゼチミブの標的であるNiemann-Pick C1 Like 1（NPC1L1）、アリロクマブなどの標的であるPCSK9をgenetically proxied阻害の標的（曝露因子）とし、LDL-Cをバイオマーカーとして用いた。

PCSK9のgenetically proxied阻害は乾癬リスク低下と有意に関連

　主解析として、UK Biobankから乾癬患者6,495例と乾癬を有さない対照群2万5,980例のGWASデータを入手し、HMGCRを阻害するバリアント19種、NPC1L1を阻害するバリアント9種、PCSK9を阻害するバリアント34種を選出。

　解析の結果、PCSK9の阻害は乾癬発症リスクの低下と有意な関連を認めた（オッズ比 0.69、95%CI 0.55～0.88、P=0.003）。乾癬患者5,621例、対照群25万2,323例を含むFinnGen研究でも同様の結果が得られた（同0.77、0.66～0.91、P=0.001）。

　HMGCR阻害、NPC1L1阻害に関しては、UK Biobank、FinnGenいずれのデータでも、乾癬リスク低下との有意な関連は見られなかった。

乾癬リスクを考えた脂質低下薬選択の第一歩となる可能性　　

　MR解析でアウトカム（今回は乾癬リスク）との関連を評価する際に問題となるのが、水平多面発現（Horizontal Pleiotropy）と呼ばれる概念である。これは遺伝子バリアント（SNP）を操作変数（instrumental variable）として使用する3つの条件のうちの1つ、すなわち、「曝露因子を介してのみアウトカムに影響する」からの逸脱を意味する。

　これを確認するため、Zhao氏らは逆分散法による感度分析を行った。その結果、pleiotropyまた遺伝的交絡（genetic confounding）を示唆する統計学的エビデンスは得られなかった。

　同氏らは「大規模データを用いたMR解析から、PCSK9が乾癬の病因である可能性およびPCSK9の阻害と乾癬リスク低下との関連が示唆された」と結論。さらに「今回の知見は、乾癬の高リスク者に適した脂質低下薬の選択に道筋を付けるものだ」と付言している。

（木本 治）