炎症は心血管イベントの強力な予測因子

ハイリスク患者を対象とした3試験の共同解析結果

2023年03月13日 17:10

　米・Brigham and Women's HospitalのPaul M. Ridker氏らは、既に厳格なスタチン治療を受けているアテローム性動脈硬化症患者またはそのリスクが高い患者を対象とした3件の臨床試験の統合解析結果をLancet（2023年3月6日オンライン版）に報告。高感度C反応性蛋白（hCRP）値はLDLコレステロール（LDL-C）値よりも強力な心血管イベントの予測因子であったと結論づけていている。

残存リスクとしてのコレステロール値と炎症

　治療開始前の患者では、炎症と脂質値はいずれも将来の動脈硬化性イベントリスクに同程度の影響を及ぼすが、現代の医療では高リスク患者の多くは高用量スタチンを含むガイドラインに基づいた治療を受けているので、残存心血管リスクとしての炎症と脂質値の重要性の比重は変化している可能性がある。

　コレステロールに関してはlower the betterの概念が広く受け入れられており、補助的な脂質低下療法（PCSK9阻害薬やベンペド酸）の上乗せによるリスク低減も報告されている。
　
　一方、抗炎症に的を絞った薬剤をスタチンに上乗せすることにより、心血管イベント予防のベネフィットが得られるとの報告もあり、痛風発作の予防に使用されるコルヒチンの有用性が報告されている（Eur Heart J 2021; 42: 2765-2775）。

過半数が高強度スタチン療法を受けた3万例以上が対象

　今回Ridker氏らは、ペマフィブラートを検討したPROMINET（N Engl J Med 2022; 387: 1923-34）、イコサペント酸エチルを検討したREDUCE-IT（N Engl J Med 2019; 380: 11-22）、ω-3脂肪酸とコーン油を比較したSTRENGTH（JAMA 2020; 324: 2268-80）の3試験の結果を解析した。
　
　解析対象数は3万1,245例（PROMINET 9,988例、REDUCE-IT 8,179例、STRENGTH 1万3,078例）で、PROMINETの参加者は全例、REDUCE-ITの参加者は58％、STRENGTHの参加者は70％が2型糖尿病に罹患していた。また、PROMINETの72％、REDUCE-ITの31％、STRENGTHの50％の患者が高強度スタチン療法を受けていた。

hCRP高値はMACE、心血管死、全死亡と有意に関連

　ベースラインのhCRP値とLDL-C値の範囲および各値と将来の心血管イベント発生率との関係は3試験においてほぼ同様であった。

　各値を四分位に分け解析したところ、残存炎症リスクは主要心血管イベント〔MACE：hCRP値の最高四分位 vs. 最低四分位の調整後ハザード比（aHR）1.31、95%CI 1.20～1.43、P＜0.001〕、心血管死（同2.68、2.22～3.23、P＜0.0001）、全死亡（2.42、2.12～2.77、P<0.001）のいずれとも有意な関連を認めた。

　一方、残存コレステロールリスクについてはMACEとの有意な関連はなく（LDL-C値の最高四分位 vs. 最低四分位のaHR 1.07、95%CI 0.98～1.17、P=0.11）、心血管死（同1.27、1.07～1.50、P=0.0086）と全死亡（同1.16、1.03～1.32、P=0.025）に関しては有意な関連が示されたものの、リスク上昇の程度は大きいものではなかった。

炎症パスウェイのさらなる研究が必要

　以上の結果を踏まえRidker氏らは「スタチン療法を含むガイドラインに基づく治療を受けている3万例以上を対象とした今回の解析により、残存コレステロールリスクよりも残存炎症リスクのほうが、心血管イベントや死亡の強力な予測因子であることが示された。今回のデータは、PCSK9阻害薬やベンペド酸といった補助的な脂質低下療法が果たしている重要な役割を否定するものではないが、LDL-Cの低下だけではアテローム性動脈硬化リスクを完全に低減させることはできないことも示唆している」と述べ「心血管イベントの発生を減らすには炎症パスウェイのさらなる研究が必要である」と結んでいる。

（木本 治）