高齢者の聴力低下、孤独感や要介護と関連？

2023年04月11日 17:23

　社会的孤立や孤独感は心身の健康に悪影響を及ぼす。しかし、加齢に伴う聴力の低下と孤独感や要介護状態の新規発生との関連は十分に検討されていないとして、国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターの冨田浩輝氏らはこれらの関連について検討。結果をJAMA Otolaryngol Head Neck Surg（2023; e230309）に報告した（関連連載「孤立・孤独は医療の課題だ」）。

高齢者約4,700例が対象

　2021年2月、英国に続き日本政府は「孤独・孤立対策担当大臣」を設置し、国を挙げて孤独・孤立対策に取り組み始めた。背景には、社会的孤立や孤独感がもたらす身体的・精神的問題が医療費や介護費の高騰に拍車を掛けるとの指摘がある。しかし、冨田氏らによると、高齢者の孤独感と要介護状態の発生との関連は多く報告されているがコンセンサスは得られておらず、加齢に伴う聴力低下と、孤独感や要介護状態の新規発生との関連については、十分に検討されていないという。

　そこで同氏らは、国立長寿医療研究センターによる、老年症候群リスクを検討する大規模コホート研究（National Center for Geriatrics and Gerontology-Study of Geriatric Syndromes；NCGG-SGS）に登録した愛知県東海市在住の65歳以上の高齢者5,563例を対象に、聴力低下と孤独感および要介護状態の新規発生との関連を検討する前向き観察研究を実施した。

　5,563例のうち、認知症、パーキンソン病、脳卒中の既往例や日常生活動作の機能低下例、介護保険による長期要介護支援例などは除外し、4,739例（平均年齢73.8歳、女性55.3%）を解析対象とした。孤独感の評価にはUCLA孤独感尺度第3版を用い、聴力低下は難聴高齢者向けハンディキャップスクリーニング検査（HHIE-S）で評価。聴力低下の有無により、非低下（対照）群（3,792例、平均年齢73.3歳）と低下群（947例、同76.0歳）に分けた。

聴力低下群で孤独感あると要介護発生リスク1.7倍

　2年間追跡したところ、要介護状態の新規発生は対照群172例（4.5%）、低下群79例（8.3%）と、低下群で有意に多かった（P＜0.05）。長期要介護状態の1000人・年当たりの新規発生件数を求めたところ、対照群22.7件、低下群41.7件（群間差19.0、95%CI 13.9〜25.6）だった。

　二項ロジスティック回帰モデルにより、孤独感の有無を従属変数、潜在的交絡因子を独立変数として両者の関連を検討した。その結果、男性〔オッズ比（OR）1.77、95%CI 1.46〜2.14〕、教育年数の長さ（同0.91、0.88〜9.94）、就労中（同0.81、0.69〜0.94）、独居（同1.23、1.02〜1.48）、運動習慣あり（同0.77、0.67〜0.88）、HHIE-S 9点以上の重度の難聴（同1.03、1.02〜1.04）、抑うつ症状あり（同3.89、3.14〜4.82）で、男性、教育年数の短さ、非就労、独居、運動習慣なし、重度の難聴、抑うつ傾向が認められると、孤独感を抱きやすいことが示唆された。

　Cox比例ハザード回帰モデルを用い、年齢、性、教育年数を調整して両群の孤独感と要介護状態の新規発生との関連を検討した。その結果、対照群では両者の関連が示されなかった（HR 1.10、95%CI 0.80〜1.52）。一方、低下群では孤独感と要介護状態の新規発生に有意な関連が確認された（同1.71、1.04〜2.81）

　以上から、冨田氏らは「聴力低下がある高齢者は、聴力低下がない高齢者に比べ要介護状態の新規発生率が高いことが示唆された。特に聴力低下例では、孤独感が要介護状態の新規発生と関連することが明らかになった」と結論。「聴力低下は高齢者における最も一般的な症状であり、介護予防戦略において特に注意する必要がある」と付言している。

（編集部）