肝臓・消化器領域における新興・再興感染症

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

ワークショップ5(肝臓学会・消化器病学会・消化器内視鏡学会・消化器がん検診学会)

10月31日(木)9:30~12:00 第13会場:神戸国際会議場 国際会議室

[司会]

梅村 武司 氏

信州大・消化器内科

杉山 真也 氏

国立国際医療研究センター研究所・感染病態研究部

須田 剛生 氏

北海道大大学院・消化器内科学

[基調講演]

脇田 隆字 氏

国立感染症研究所

[演者]

金澤 実 氏

聖マリアンナ医大・救急医学

由雄 祥代 氏

国立国際医療研究センター・肝炎・免疫研究センター肝疾患研究部

佐々木(田中) 玲奈 氏

新潟大大学院・消化器内科学

佐々木 貴志 氏

北海道大・消化器内科

中野 達徳 氏

藤田医大七栗記念病院・内科

日高 勲 氏

済生会山口総合病院・消化器内科

盛田 篤広 氏

京都第二赤十字病院・消化器内科,京都第二赤十字病院・感染制御部

高木 慎太郎 氏

広島赤十字・原爆病院・消化器内科

弘津 陽介 氏

山梨県立中央病院・ゲノム解析センター

益田 康弘 氏

近畿大病院・消化器内科

藤本 晃士 氏

大阪公立大大学院・消化器内科学

菊池 健太郎 氏

帝京大溝口病院・4内科

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は肝臓・消化器疾患の診療にも影響を及ぼした。21世紀初頭から新興・再興感染症は流行を繰り返しており、今後もその動向と影響を注視する必要がある。本セッションでは、A型肝炎(AHA)、B型およびD型肝炎の共感染、E型肝炎、COVID-19、結核、Clostridium difficile感染症(CDI)が取り上げられた。

解明進むが、それぞれの領域において新たな課題も

 基調講演では、脇田隆字氏が新興・再興感染症が肝臓・消化器疾患領域に与えるインパクトについて概説。肝臓領域においては、B型肝炎ウイルス排除のための新規治療法開発、A型およびE型肝炎の疫学的モニタリングの重要性、アデノ随伴ウイルスの関与が報告されている小児の原因不明肝炎、消化器疾患領域においてはピロリ菌以外のヘリコバクター属菌やClostridium difficileにより発症する偽膜性腸炎について触れた。

 自施設および関連施設での27年間にわたるAHA患者101例の臨床的特徴について検討した金澤実氏は、「男性が多く、年齢は高齢化しつつある。春先に流行が認められ、感染源としては生ものの摂取が多かったがさまざまな原因を考慮すべき。また、男性同性愛者はAHAの危険因子であることが想定される」と報告。「AHAの病態を把握するためには継続的なサーベイランスが重要」とまとめた。

 由雄祥代氏は、A型肝炎ウイルス(HAV)/ヒト免疫不全ウイルス(HIV)-1重複感染者におけるHAV遷延に関わる免疫因子を同定するため、年齢・ピークALT値が一致したHAV/HIV-1重複感染者47例、HAV単独感染者26例を対象に70種類のサイトカイン・ケモカイン、T細胞応答、血清HAV中和活性を測定。HAV/HIV-1重複感染におけるALT正常化の遅延はCD8 陽性T細胞の活性化障害に起因する可能性があるとした。

 佐々木(田中)玲奈氏は抗HAV薬の薬効評価を目的として、HAV感染雄マウスXenograftモデルを開発。Masitinib投与群と対照群に割り付け薬効を検討した。その結果「Masitinibは腸管組織への炎症細胞浸潤を抑制した」と報告した。

 佐々木貴志氏は、日本のB型肝炎ウイルス(HBV)感染患者におけるD型肝炎ウイルス(HDV)共感染の有病率とその特徴を明らかにするため、自施設に通院歴があり、保存血清を有するHBV感染患者601例を対象として有病率やHDV共感染患者の特徴を検討。有病率は1.7%で、HDV陽性例は陰性例と比較しHIV感染者が多く、肝線維化が進行しており、肝予備能が低下しているなどの特徴が見られた。

 中野達徳氏は、E型肝炎ウイルス(HEV)の感染源および感染経路を見直し、感染対策を検討。日本の野生動物や飼育ブタに土着するウイルスの近縁株に感染する症例が多かったものの、感染経路不明例も多く、輸入されたブタ肉にウイルスが含まれる場合も多い。同氏は「ブタ用ワクチン開発も必須だが、ヒト用のワクチンや抗ウイルス薬の開発も必要」と結論した。

 COVID-19は肝障害を引き起こすことが知られている。日高勲氏は、5類感染症移行前に自施設に受け入れ要請のあったCOVID-19患者310例における肝障害の頻度を検証。約30%に肝障害を認め、肝硬変症例においてはCOVID-19罹患後の肝予備能低下を多くは認めなかったものの、一部死亡例があったことを報告した。

 盛田篤広氏は、自施設の入院患者を対象にCOVID-19が肝疾患、消化器疾患に与える影響および重症化要因を検討。高齢、肝疾患、膠原病、消化器がん、消化器症状を有するCOVID-19症例は重症化のリスクがあり、慢性肝障害、MASLD、ALDなどの肝疾患を有する症例および消化器がんを有するBMI低値症例には重症化を考慮した対応が必要であると結論づけた。

 高木慎太郎氏は、2020年8月~24年2月に自施設に入院したCOVID-19患者1,036例のうち、慢性肝疾患を有していた52例について予後不良因子を検討した。慢性肝炎例と肝硬変例では肝硬変例で、Child Pugh(CP)分類別ではCP-Cで有意に予後不良が多かった。多変量解析では肝性脳症、腹水が予後に関連していた。

 弘津陽介氏は、自施設の入院/外来患者でCOVID-19罹患の判明日に肝機能データ(ALB、ALT、AST、PT%,総ビリルビン)のデータセットが得られた461例について検討し、COVID-19と肝障害の関係を解析した。その結果、COVID-19は流行株に関わらず急性肝機能障害を引き起こす可能性は低いことが示されたが、「Long COVIDのように長期にわたる肝障害の増悪因子となる可能性がある」と考察した。

 益田康弘氏は、COVID-19 mRNAワクチン接種後の潰瘍性大腸炎(UC)の再燃・発症について検討するため、健常人4例、ワクチン非関連UC 10例、ワクチン関連UC 3例について腸管免疫環境を解析。ワクチン関連UC例の大腸粘膜では、典型的な炎症性サイトカイン反応に加え、Toll様受容体(TLR)7を介するI型インターフェロン(IFN)反応が亢進し、病態を形成していることが示唆された。

 藤本晃士氏は、日本人のクローン病患者において生物学的製剤による結核発症リスクを検討。TNFα阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ)による治療を受けた患者の結核発症リスクを解析した。単変量解析では結核発症の危険因子は同定されなかったが、多変量解析において特定のTNFα阻害薬の使用が結核発症の危険因子であることが示された。

 菊池健太郎氏は、「withコロナ時代においてCDIの見落としや感染拡大に注意が必要」とし、自施設において最も多い危険因子について検討。「感染症、循環器疾患、悪性腫瘍の患者で高齢、抗菌薬投与歴、制酸薬使用がある例およびCDI治療例で治療後の抗菌薬投与がある例についてはCDI再発を意識することが診断率の向上と再発の防止に役立つ」と考察した。

 それぞれの感染症において研究・解明が進み、さまざまな知見が新たに得られたが、それと同時に多くの課題も提示された。Withコロナ時代において感染症やワクチン接種と肝臓・消化器領域疾患の相互的な関連が注視される中、各講演後の議論は非常に活発なものとなった。

第67回日本消化器病学会大会

[会長]上野 義之 
山形大学 内科学第二(消化器内科学)

第110回日本消化器内視鏡学会総会

[会長]田中 聖人 
京都第二赤十字病院

第29回日本肝臓学会大会

[会長]加藤 直也 
千葉大学大学院 消化器内科学

第23回日本消化器外科学会大会 

[会長]瀧口 修司 
名古屋市立大学大学院 消化器外科学

第63回日本消化器がん検診学会大会

[会長]岡庭 信司 
飯田市立病院 消化器内科

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