「うんちでできる社会貢献」、国内初の「献便」施設オープン…腸内細菌抽出し難病治療の経口薬研究(読売新聞)

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 健康な人の便に含まれる腸内細菌を集め、創薬研究に活用する取り組みが山形県鶴岡市で進んでいる。国内初の「 献便けんべん 」施設が昨春、市内に設置され、難病「潰瘍性大腸炎」の治療薬開発を目指し、先月から治験が始まった。研究には庄内地域の豊かな食文化が貢献しており、担当者は「鶴岡から世界の人を健康にしたい」と意気込む。

 昨年4月にオープンした「つるおか献便ルーム」は、順天堂大や慶応大などで設立した医療・創薬新興企業「メタジェンセラピューティクス」(鶴岡市)が運営する。専用のトイレ3室と休憩スペースがある。便から腸内細菌を抽出した溶液を作り、冷凍。川崎市内の製薬施設で粉末状に加工し、薬に活用する。

 同社によると、腸内細菌のバランスが乱れると、様々な病気の発症に影響する。すでに健康な人の便に含まれる「腸内細菌 そう (腸内フローラ)」を疾患を持つ患者に移植し、腸内環境を改善する治療法の効果が確認されているが、経口薬の開発で、より簡単に多くの患者に治療を行うことが狙いだ。6月10日から始まった治験の第1弾は日米の計18人に経口投与する予定で、2032年の医薬品承認と販売開始を目指す。便由来の製剤は豪州や米国で承認されているが、日本は未承認だ。

 鶴岡に献便ルームが設置されたのは、その豊かな食文化にある。1週間に30種類の食材を取ると、腸内細菌の多様性につながるとされるが、鶴岡市は食物繊維を豊富に含む山菜が各家庭で親しまれ、季節に合わせた多様な食文化が生活に根付く。14年には日本で初めて国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「食文化創造都市」に選ばれた。

 便の提供者の一人、鶴岡市の自営業小南昭子さん(58)は、元看護師。潰瘍性大腸炎で苦しむ患者を多く見てきており、「献便は自分にできる新しい支え方」と語る。

 同社によると、提供者は鶴岡市を含む庄内地域在住の18~65歳で、基礎疾患がないなどの厳しい選考基準がある。このため1500人以上が応募したが、採用はわずか63人。登録する提供者の半数以上が40~50歳代のため、若者にも興味を持ってもらいたいと、庄内地域の約80か所に「うんち、お譲りください」と書かれたポスターを掲示する。

 同社役員で、順天堂大の石川大教授(消化器内科)は「鶴岡の豊かな食文化が腸内細菌に与える影響について大きな期待をしている」と意義を語り、献便ルーム長の石沢成美さん(30)は「献便を通じて地域では健康に目を向ける人が増えている。『うんち』で社会貢献をしたい」と夢を広げている。

◆潰瘍性大腸炎= 大腸の粘膜に炎症が起き、下痢や腹痛が起きる難病で完治は難しい。国内患者は推定約31・7万人。腸内細菌の関与や免疫反応の異常などが指摘されているが、原因はわかっていない。安倍元首相の持病だったことでも知られる。

 (2026年7月24日 読売新聞・山形支局 岩峪諒

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