実臨床を反映しない日本の「実臨床研究」

元凶は「レセプトデータベース」の致命的欠陥

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

国際的に広く認知されるRWE研究だが...

 薬剤の有効性や安全性(ファーマコビジランス)に対する「実臨床研究(リアルワールドエビデンス研究:RWE研究)」が世界中で盛んに行われている。製薬メーカーによる従来の市販後調査(post marketing surveillance:PMS)に加えて、近年はアカデミア主体の「大規模コホート研究」と銘打った報告が増加している。その多くは診療報酬明細書(レセプト)情報(claims data)を中心としたデータベースの解析で、1990年代に欧米で始まり、現在では実臨床研究の主要な手段として国際的に広く認知されている()。

図. 世界のレセプトデータ研究の年次推移(PubMedで「claims database X cohort study」でヒットした論文数)

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 このレセプトデータベース(claims database)を用いた研究は2000年代には日本にも輸入された。当初は、医療費分析、有病率調査、製薬マーケティングなどの目的で利用されているにすぎなかったが、2010年前後から「レセプトデータは実臨床を反映している」ことを前提とした国内RWE研究が出現し、その後は国内でも増加を続けている。

 しかしながら、日本におけるレセプトデータを用いたRWE研究の科学的信憑性は欧米に比べると極めて低い。日本と欧米ではレセプトそのものの内容に違いがあり、欧米と違って日本のレセプトデータは実臨床を反映しているとはとても言えないからである。

川口 浩(かわぐち ひろし)

社会医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院・整形外科顧問

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。2023年から現職。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は340編以上(総計impact factor=2,032:2023年7月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

川口 浩
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