臨床とビジネス、それぞれの観点でみる医療AIの現状とこれから 後編
医師のためのランチタイム勉強会 解説記事
医療AIの進化は目覚ましく、臨床現場だけでなく、ビジネスの世界に与えるインパクトも大きい。2025年2月に開催された「医師のためのランチタイム勉強会」では、大阪大学大学院の三吉範克氏と医師兼起業家であるアンター株式会社の中山俊氏が登壇。前編に引き続き、医療AIの現状と将来像について、臨床医と起業家の観点から熱く語り合った。
日常の違和感をニーズとして捉える若手が革新的なAIを生む
電子カルテや問診業務のAI化に関しては、若い世代の間でも「取り組みたい」「開発したい」という関心や意欲が高まってきているという。中山氏は、「ChatGPTなど生成AIの進歩に触れたことで、『問診内容をSOAP形式にまとめるような生成AIを開発したい』といって相談に来る若手医師や医学生が増えてきた」と明かす。中には企業を立ち上げ、製品として販売に至ったケースもあるという。
電子カルテへのAI搭載を例に考えると、製品開発や起業は現場のちょっとした困りごとの延長線上にあるといえよう。日常で感じる些細な引っかかりを実際のニーズとして捉える若手により、革新的な製品やサービスが生まれ始めているのだ。
こうした動きを歓迎しつつも、中山氏は「良いアイデアであっても、"いくらなら売れるか"、"誰が金を払うのか"を考えなければ、事業としては成立しない」と現実的な厳しさも指摘した。また、AIは加速的に進化しており、薬事承認を得た時にはすでに古くなっている可能性があるため、誰よりも早く作り、売り切ることが勝敗を分けるという。同様に三吉氏も「独自性が高いアイデアほど迅速に形にして、早急にシェアを拡大、次の展開に繋げなくてはならない」とスピード感が必要不可欠であることを強調した。
AIの開発とビジネス化の方向性は1つではない
三吉氏は、自身が開発し、特許を取得した『リンパ節検出の手術後プロセス簡素化ツール』を製品化したいと考え、大阪商工会議所で自らプレゼンをして企業担当者にアプローチした若いころのエピソードを紹介。当時に思いを巡らせ、「当時は研究者としての視点しかなかったので、 "どう展開するのか"を教えてくれる人がいれば、違う選択肢があったかもしれない」と振り返った。これに対し、中山氏は「起業する以前、商工会の創業セミナーに参加し、場違い感を感じたことがある」という経験談で共感した。
両氏の経験を通じて見えてきたのは、熱意とともに指南役の存在の重要性であり、若い世代が持つ自由な発想を形にするには、支援する仕組みとちょっとした背中のひと押しが必要といえる。三吉氏は「かつては、医師が何かを開発して売ることなど考えられなかったが、今は新しいツールや情報源が豊富にある。あとは行動するかどうかだ」と若い世代にチャレンジを激励した。
医療AIにおいては、"研究者・臨床の視点"と"実装・ビジネスの視点"の間に距離があるため、良いアイデアがあっても「売れないだろう」「ニーズが少なすぎる」と判断し、埋もれてしまうことも少なくない。だが、たとえ国内でのニーズが限られていても、海外で展開する道が残されている。
その点について、中山氏は「身体の内側にアプローチできる医療機器を持つ日本は、海外展開においてアドバンテージがある」と話す。皮膚など身体の外観・表面的な検査技術は世界的に普及しているが、内視鏡や超音波のような身体の内側を検査する技術は日本がリードしている。こうした技術を活かしたAI製品は海外での展開が望めるという。
また、現時点では国内での展開に留まる製品であっても、「一気に広げるタイミング」「独自技術で勝負する方向性」「他社が追従できない先行優位」を意識すれば、世界の医療を変えることは十分あるえるという。三吉氏は「尖ったアイデアと時流がマッチすれば、一気にブレイクする可能性がある」とし、改めて未来を見据えた開発が肝要だと述べた。
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