特異的PAH治療薬導入後の カテーテル短絡閉鎖術で良好な成績

顕著な肺高血圧症を伴う心房中隔欠損症

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 近年,肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する特異的治療が目覚ましく進歩しており,重症例はプロスタサイクリン持続静注,軽症〜中等症はエンドセリン受容体拮抗薬やPDE-5阻害薬などの経口薬で管理可能となっている。一方,心房中隔欠損症(ASD)に対し,より低侵襲のカテーテル短絡閉鎖術が普及しつつあるが,PAHを伴うASDの治療戦略は十分確立されていない。岡山大学循環器内科の木島康文氏らは,特異的PAH治療薬を必要としたASD患者22例のカテーテル短絡閉鎖術後約1年の治療成績について検討。その結果,顕著なPAHを伴うASDであっても,術前に特異的PAH治療を導入することで血行動態が改善し,症状を悪化させることなくカテーテル閉鎖を安全に施行できることをCirc J(2016; 80: 227-234)に報告。今後,特異的PAH治療薬に反応するASD患者では,薬物療法に加えて短絡閉鎖術という治療選択肢が増えることが期待されるという。

研究者の横顔
木島氏

岡山大学循環器内科
(現・David Geffen School of Medicine at UCLA, Interventional Cardiology)
木島 康文

 木島氏は岡山大学医学部を卒業し,病院勤務を経た後,同大学循環器内科で伊藤浩教授の指導を受けて今回の研究をまとめた。同大学病院では,肺高血圧症などの合併症を伴う先天性心疾患患者について,標準的な開心術に比べて低侵襲であるカテーテル治療の適応・妥当性の検討を含めた紹介を受ける機会がしばしばあった。しかし,この研究を始めた当初は,sPAPなどからPAHを定義してカテーテル治療の有効性を検討した報告しかなかった。今回の研究は,PAHの現在の標準の定義を用いたこと,ASD閉鎖術をカテーテル治療に限定した点が強みとなっている。

 解析によると,特異的PAH治療薬は顕著なPAHを伴うASDの連続症例の血行動態を改善し,続くカテーテル閉鎖を安全に施行できた。この好ましい結果について,木島氏は「カテーテル閉鎖に伴うPAHの急性増悪は認められなかった。これが低侵襲性によるものなのか,症例選択によるものなのかは明らかでないが,術者の印象としては短絡閉鎖自体が急性増悪の要因となる可能性は低いように思われる。一方,PHM群,非PHM群ともにカテーテル閉鎖直後に比べて遠隔期により推定PAPが低下する症例が認められた。このような症例で実際に血行動態が経時的に改善しているかどうか,カテーテル検査で確認することが望ましい」と話す。

 同氏は現在,米・David Geffen School of Medi­cine at UCLA,Interventional Cardiologyに留学中で,卵円孔開存症に対するカテーテル閉鎖に関する研究および手技を学んでいる。「心房レベルにおける“左右短絡”から“右左短絡”に研究対象がシフトしている。苦労することもあるが,総じてロサンゼルスは日本人に優しい街。甘やかされているだけかもしれないが,ジャパニーズイングリッシュにも寛容」と話している。

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