アフリカで学ぶリアルな熱帯医学

外務省福利厚生室上席専門官 寺井和生

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

 カメルーン共和国の大西洋岸の小さな村に滞在中の若い男性から、在カメルーン日本国大使館に「40℃の高熱で動けない」と連絡が入りました。当時、私は同大使館に医務官として勤務しており、対応することとなりました。男性は、世界でもこの地域にのみ生息する甲虫を採取する目的にて、単身で当地を訪問し、現地人宅に滞在して2週間ほどたっていました。渡航前には黄熱病以外のワクチン接種はなく、マラリア予防薬の内服もしていませんでした。診察したところ感染症に間違いなく、下痢や呼吸器症状はなく、感染源が明かでない高熱といえば疾患名は限定されます。もちろん、その地域は高度の熱帯熱マラリア浸淫地域です。滞在期間、現地での生活様式などを考慮すると、マラリア、デング熱、チクングニア熱、腸チフス、レプトスピラ症などが考えられ、もちろんウイルス性出血熱の可能性も否定できません。速やかに、同地域におけるウイルス性出血熱の流行情報を検索し、そのような情報はないと知りひと安心したところで、近隣の商業都市にある信頼できる病院を紹介し、可能性のある疾患やその対応について説明をしました。幸いにも海外旅行保険には加入されており、その後の手配は全て保険会社が行い、救急車で悪路の中2時間ほど走ったところにある病院で診察や検査を受けた結果、熱帯熱マラリアではなく、なんらかの細菌感染症で、第三世代セフェムの点滴およびその後の抗菌薬内服にて軽快しました。数日後に会いに行ったときには、快適なホテルに滞在された元気そうな姿を見て安心しました。

寺井 和生(てらい かずお)

1970年大阪府吹田市出身。1994年熊本大学医学部卒業。大学卒業後、大阪大学第3内科に入局し、大阪大学付属病院、愛染橋病院内科、桜橋渡辺病院循環器内科、大阪府立成人病センター循環器内科にて勤務。循環器専門医。2006年大阪大学大学院医学系研究科 分子病態内科学修了(医学博士)。2008年長崎大学大学院 修士課程 熱帯医学専攻修了(MTM)。2013年ロンドン大学衛生学・熱帯医学大学院(LSHTM)修士課程 熱帯医学専攻修了(MSc)。2008年外務省に入省し、カメルーン、英国、スーダンの日本国大使館に医務官として勤務。2015年7月厚生労働省に出向し、東京空港検疫所支所にて検疫官として勤務。2016年4月より現職。

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