新旧骨形成促進薬の対決

ロモソズマブvs.テリパラチド

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研究の背景:ビスホスホネート休薬後に投与する薬剤は?

 ビスホスホネート製剤は、骨粗鬆症に対する代表的な骨吸収抑制薬である。しかしながら、最近、顎骨壊死や大腿骨非定型骨折などの合併症が問題となっており、7年程度での休薬が推奨されている。問題はその後の移行治療法である。これらの合併症がビスホスホネート製剤による骨代謝回転の低下に基づく可能性があるため、同様の骨吸収抑制薬であるデノスマブ(商品名プラリア)への移行は適切とは思えない。最も適切と考えられるのは、骨形成促進薬への切り替えである。

 わが国の臨床現場で広く使われている骨形成促進薬としては、副甲状腺ホルモン製剤のテリパラチド(商品名フォルテオ)がある。一方、新しいタイプの骨形成促進薬として、ロモソズマブがわが国でも注目されている。

 ロモソズマブは、骨芽細胞における骨形成シグナルであるWntシグナルの阻害因子スクレロスチンのヒト型抗体製剤で、スクレロスチンと結合してその作用を阻害することにより、骨においてWntシグナルを活性化させて骨形成を促進する。同薬の米食品医薬品局(FDA)への承認申請の基盤となる第Ⅲ相臨床治験は以下の3件である。

FRAME試験:7,180例の閉経後骨粗鬆症女性が対象、プラセボ対照(N Engl J Med 2016;375:1532-1543、関連記事「抗スクレロスチン抗体で椎体骨折リスク7割減」)

ARCH試験:4,093例の骨折高リスクの閉経後骨粗鬆症女性が対象、アレンドロネート対照(N Engl J Med 2017;377:1417-1427、関連記事「抗スクレロスチン抗体に強力な骨折予防効果」)

BRIDGE試験:少数例の男性骨粗鬆症患者のみ対象(関連記事「男性骨粗鬆症患者で有意に骨密度上昇」)

 FDAはこの中のARCH試験において、重篤な心血管系有害事象がロモソズマブ群で有意に上昇した結果に懸念を示し、現時点での承認を見送る審査完了報告通知を今年(2017年)5月に発出した(関連記事「第2の骨形成促進薬の命運」)。アムジェン社は今年中の承認を断念し、現在、前記の3試験についての再調査を行っている。この追加調査データの提出後に、FDAでの再審査が行われる。

 今回取り上げる論文は、ビスホスホネート製剤で治療を受ける閉経後骨粗鬆症女性の治療薬移行について、ロモソズマブとテリパラチドとの骨密度増加効果を比較した、第Ⅲ相の非盲検ランダム化実薬対照試験である(Lancet 2017;390:1585-1594)。

川口 浩(かわぐち ひろし)

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文全299編(総計impactfactor=1,506:2017年11月14日現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa DeltaAwardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G.Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

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