治療の難所―マンネリを破る

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

「注射、痛いんです。やめてもらえませんか」

 いつもと同じ、遠慮がちな声だったけれど、いどむような目だった。この人がこんな目をするなんて。私の返事をじっと待っている。月1回の通院を数年間、一度も欠かさずに続けていて、よく知っているつもりだったその人の顔が、初対面の人のようにくっきりと見えた。白髪混じりの髪の一本一本が私に訴えている。

胡桃澤 伸(くるみざわ・しん)

精神科医・劇作家

1966年、長野県生まれ。95年から神戸大学精神神経科での勤務を開始。その後、大阪、東京、千葉の病院に勤務。専門は統合失調症、外傷性精神障害。劇作家として「くるみざわしん」の筆名で関西を中心に上演を続けている。「同郷同年」が「日本の劇」戯曲賞2016と第25回OMS戯曲賞大賞、「忠臣蔵・破 エートス/死」が2019年文化庁芸術祭賞新人賞を受賞。共著に『中井久夫講演録 統合失調症の過去・現在・未来』、近著に『くるみざわしん 精神医療連作戯曲集 精神病院つばき荘/ひなの砦 ほか3篇』(いずれもラグーナ出版)がある。

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする