失明を招く遺伝性網膜変性疾患に新たな光

開発中の遺伝子治療薬NGGT001の実力

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研究の背景:BCDに対しては遺伝子治療によるアプローチが効果的?

 Bietti's Crystalline Chorioretinal Dystrophy(BCD)は、日本では「クリスタリン網膜症」とも呼ばれる稀少な遺伝性網脈絡膜ジストロフィーである。正式には「ビエッティ型結晶性網脈絡膜ジストロフィー」と訳され、CYP4V2遺伝子の変異によって引き起こされる。網膜には黄白色の特徴的な結晶が沈着し、それに伴い網膜色素上皮(RPE)、光受容体、脈絡膜毛細血管が進行性に萎縮していく。20~30歳代で夜盲や視力低下、視野狭窄、色覚異常などが現れ、最終的には50〜60歳代で法的失明に至ることが多い。

 BCDは欧米では極めてまれである一方、東アジア、特に中国で高頻度に見られる。中国の網膜色素変性症(RP)有病率は3,784人に1人と推定され、そのうち15%がBCDとされ、BCD有病率は2万5,000人に1人と推定される。残念ながら、現在BCDに対する根本的な治療法は存在しない。

 BCDは遺伝子補充療法に非常に適した特徴を有している。原因遺伝子であるCYP4V2のコード配列はわずか1,578塩基対であり、これは主要な遺伝子治療用ベクターであるアデノ随伴ウイルス(AAV)に収まるサイズである。さらに、BCDの主要な病態はRPE細胞に局在しており、AAVを網膜下注射で直接送達する戦略が有効である。今回は、中国のNext Generation Gene Therapeutics(NGGT)社が開発中の遺伝子治療薬NGGT001の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験結果を取り上げる(JAMA Ophthalmol 2025; 143: 126-133)。

柳 靖雄(やなぎ やすお)

医療法人社団祥正会お花茶屋眼科手術外来院長、横浜市立大学視覚再生外科学客員教授、デューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor

東京大学医学部を卒業(1995年、MD)し、同大学大学院で医学博士号を取得(2001年、PhD)。基礎医学に強固な学術的バックグラウンドを持ち、200本以上の科学論文を執筆、国内外で10以上の賞を受賞。東京大学医学部眼科学教室講師(2012~2015年)、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016~2020年)、旭川医科大学眼科学教室教授(2018~2020年)を歴任し、現在は横浜市立大学視覚再生外科学客員教授(2020年~)およびデューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor(2020年~)として国際共同研究に積極的に関与している。専門は黄斑疾患で、新規治療薬に関する特許を多数出願。スタンフォード大学とエルゼビア社が2024年に発表した「世界のトップ2%の科学者リスト」に選出された。DeepEyeVisionの取締役としてAI技術の開発に携わり、国際誌「TVST」や「Scientific Reports」の編集者としても日本のプレゼンス向上に貢献。都内のクリニックでは質の高い診療を提供し、地域医療にも尽力。現在、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究など多岐にわたる分野で積極的に活動している。

柳 靖雄
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