術前貧血は「女性の方が危険」なのか
17万例超の後ろ向きコホート研究
研究の背景:貧血の基準は男女で同じでよい?
術前診察でヘモグロビン(Hb)値の低い患者を前にしても「手術ができないほどではない」「必要なら術中に輸血すればよい」と判断されることは、今なお少なくない。しかし近年、術前貧血は単なる検査値異常ではなく、術後臓器障害・感染・入院期間延長・再入院・死亡、そして同種赤血球輸血の増加と関連する重要な周術期危険因子と認識されるようになった。
問題は、何をもって「貧血」と定義するかである。世界保健機関(WHO)の基準では、非妊娠女性はHb 12g/dL未満、男性は同13g/dL未満が貧血とされる。一方、周術期領域では男女を問わずHb 13g/dL未満を術前貧血と見なし、早期に原因検索と治療を開始すべきとの考え方も広がりつつある。
女性はもともと男性よりHb値、循環血液量、貯蔵鉄量が低値である。にもかかわらず、手術に伴う出血量は、必ずしも女性の方が少ないわけではない。そのため同程度のHb低下であっても、女性の方が周術期の生理学的予備力を失いやすい可能性がある。
今回Br J Anaesthに掲載されたE.H.Crispell氏らの研究は、術前貧血と術後転帰との関連が男女で異なるかを、22万件を超える大規模データから検討したものである(2026; 137: 470-478)。「同じ“貧血”という所見は、女性と男性に同じ意味を持つのか」-本研究はこの問いに正面から向き合っている。
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