「睡眠薬、10錠持ってきてよ」
医師に薬の持ち出しを依頼されたらどうするか?
シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社
川村 和美
患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に頼らずそのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。
次のケースに遭遇した場合、あなたならどう考えますか?
「薬がないと眠れない」

私は、勤務20年目の病院薬剤師(42歳)です。
手術室の救急カートの使用期限を確認していると、いつもこわもてでほとんど話をしたことのない麻酔科部長(53歳、男性)から「ゾルピデム(マイスリー)を10錠持ってきてよ。ここのところ大きなオペが立て続けにあって、ストレスで眠れないんだ」と言われました。
以前、処方箋を発行する立場にある医師には、自由に薬を渡すことができました。しかし、数年前に病院のセキュリティ強化対策が取られた結果、当院では医師本人の使用であっても、処方箋の発行が必要になりました。
そこで、「先生、現在は職員の投薬についても、処方箋をご記入いただかないと...」と説明しようとすると、遮るように「そんなこと分かってるよ、時間もかかるし面倒なんだよ。処方箋を発行しようとしまいと、支払いがあるわけでもないし、何も変わらないだろ? 手元のマイスリーがなくなって困ってるんだ。頼むよ」と言われました。
分かった上で依頼をしているのですから、これ以上、私が説明したり拒んだなら、麻酔科部長先生の逆鱗に触れるでしょう。その結果、手術室に出入りしづらくなることは目に見えています。
あなたなら、どのように対応しますか?
あなたならどうしますか?
あなたは、何番を選択しましたか?あるいは、別の方法を考えたでしょうか。このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。
※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは?
5つの視点から考えてみよう!
皆さんは、どの方法を選択しましたか? あるいは、別の方法を考えたでしょうか。このケースを考える上で、大切なポイントを【薬学的な視点】【利用者の視点】【関係者の視点】【状況の視点】【QOLの視点】の5つから解説していきます。
◆薬学的な視点
副作用、医療費を考慮する
もし勝手に持ち出した薬によって重篤な副作用が発現した場合、副作用救済制度の対象にはなりません。その場合、誰がその補償をするのかというところまで、考えて行動する必要があるでしょう。
薬学管理を行う者としては、医療費の仕組みも理解しておく必要があります。職員の支払いがないという点では同じでも、勝手に持ち出した薬剤をこっそり渡してしまった場合と、処方箋発行に基づいて調剤した薬剤を含む一連の受診行為による3割の自己負担分を職場が負担する場合では、職場や健康保険組合での取り扱いが異なります。つまり後者の「福利厚生として職場が負担する場合」では、単に薬剤費のみならず、受診料や処方料、調剤料等を含む7割が健康保険組合から支払われるという仕組みなのです。薬だけお渡ししていたら、病院は正しい出入金や職員にかかる医療費を把握できないでしょう。
◆麻酔科部長の視点
かつての感覚で気軽に相談された可能性も
過去には、各病棟に鎮痛薬や睡眠薬が入った薬箱が設置されており、職員は自由に使えるという福利厚生を導入している施設がたくさんありました。麻酔科部長にはその習慣が染みついていて、ルールが変わった今も、気軽に依頼したのかもしれません。あるいは、処方しようがしまいが職員には支払いが発生しないため、処方箋記載の意義を感じていなかったのかもしれません。それゆえ、処方箋を書くなんて面倒なことをしないで、薬剤師に直接依頼して済ませようと考えたのかもしれません。
◆関係者の視点
他の医師や看護師から頼まれるかも
この場面を見ていた他の医師や看護師がいたら、「この薬剤師に依頼すれば、欲しい薬を持って来てもらえるんだ」と認識してしまうかもしれません。あるいは、他の薬剤師に同じような依頼をして断られたとき、「あの人なら持って来てくれるのに」と不満に感じたり、不服を言動に表す可能性もあるでしょう。そうなったときに、他の薬剤師があなたにネガティブな印象を持ったり、問題視するかもしれません。
◆状況の視点
薬剤をこっそり持ち出す行為は盗難に該当
法律上、義務付けられている薬剤はもちろん、向精神薬についてはその習慣性や依存性から内規により在庫数を確認するなどの薬剤管理を行い、盗難や紛失の際には速やかに県へ届け出ができる体制を取っている施設が大半なのではないでしょうか。在庫システムにより出納入数の相違がすぐにわかるように管理している施設もあるでしょう。
いずれの薬剤であっても、こっそり持ち出すという行為は盗難に該当する可能性があり、薬を取り扱える薬剤師という資格を用いた職権乱用と見なされても仕方がないと思います。一方、麻酔科部長と薬剤師は上下の関係性にありますので、薬剤師が断ったのに持参を強要したとすれば、パワハラの適用となるかもしれません。
◆QOLの視点
関係者、職場スタッフ、患者と幅広くQOLが低下
麻酔科部長の依頼により薬剤師が勝手に薬を持ち出したということになれば、麻酔科部長と当該薬剤師、さらにその管理者である薬剤部長が処分の対象となる可能性があります。本件が表沙汰になれば、病院もダメージを負う可能性があります。関係者である麻酔科部長と当該薬剤師のQOLはもちろん、この病院に勤務する職員、さらに通院する患者のQOLも下がることが危惧されます。
それぞれの対応は望ましい?
下の図は、さきほど選んでいただいた対応の一覧です。

あなたが選んだ対応が医療者として望ましい対応かどうか、次の記事では5 つの視点から問題を整理し、総合的に判断して、検証をしてみましょう。
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