柔整の巨大市場、交通事故診療を考える

「医療機関との併診はできない」はホント?

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年間3,700億円が支出され、健康被害が多発する柔整

 われわれ整形外科の領域には医業類似行為が蔓延している。その規模は巨大で、年間約5,000億円が公的保険として支出されている。中でも柔道整復(柔整:接骨院・整骨院)には約3,700億円が支出されている。この額は、小児科や産婦人科の年間医療費を上回っている。しかしながら、最近では柔整が長年続けてきた不正請求、水増し請求に対して行政のメスが入り始めている。

 一方、われわれ医療人が看過できないのは、適切な診断がされないまま漫然と施術が続けられることによって生じる患者の健康被害である。日本臨床整形外科学会が129の医療機関を対象に行った実態調査では、医業類似行為に係わる健康被害は、5年間で1,177例に上った(関連記事「医業類似行為による健康被害、5年で1,000例超」)。もちろん、この数字は氷山の一角だろう。

 現在、整形外科医が柔整への対応のバイブルとしているのは、日本整形外科学会(日整会)が全会員に配布した冊子『医師のための保険診療基礎知識(2019年改訂):医業類似行為関連Q&A』である。本稿で取り上げたいのは、この冊子の最後のページに掲載されている「接骨院(整骨院)に行ってもいいですか?」と患者さんに言われたら?→「同じ病名で接骨院と医療機関を同時にかかることはできないので、当院での治療は終わりになります」の漫画である()。これを根拠として、患者が接骨院を受診することを禁止した整形外科医も少なくない。

図. 柔整と医療機関の併診に関する指針

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(『医師のための保険診療基礎知識(2019年改訂):医業類似行為関連Q&A』)

川口 浩(かわぐち ひろし)

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は320編以上(総計impact factor=2,011:2022年9月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

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