「過剰診断」を問う-福島の甲状腺検査15年が示すもの
耕雲会おおつる内科医院/長崎大学 客員教授 大津留 晶
原爆被爆者やチョルノービリ原子力発電所事故後の調査・研究などにより、幼少時の放射線被曝が甲状腺がんの発症要因になりうることが示されている。そのため、2011年3月の東日本大震災時の東京電力福島第一原子力発電所事故後に、福島県の18歳以下の小児を対象とした超音波による甲状腺がんスクリーニング(以下、甲状腺検査)が開始された。
私は2011年秋から福島県の県民健康調査に従事し、甲状腺検査では、主に一次検査の超音波スクリーニングに携わった。この当時、過剰診断の発生の心配はしたものの、多くの専門家と同様に、過剰診断がもたらす被害の深刻さまでは想像できていなかった。
2014年、1巡目の二次検査の結果が出始めると、当初の予想を大きく上回る甲状腺がんの発見が生じ、過剰診断が高い確率で疑われた。甲状腺検査は解決すべき問題が山積しているということで、2015年の春から甲状腺検査部門の部門長をお引き受けした。
この検査によって多数の甲状腺がんが発見されたことで、人々の不安が原発事故当初と同様に高まっていた時期だった(Science 2016; 351: 1022-1023、Lancet 2015; 386: 489-497)。
検査直後の結果説明ブースの設置、電話相談、検査の説明文の改訂、学校への出前授業などを新たに始めた(Science 2016; 352: 666-667、Asia Pac J Public Health 2017; 29: 63S-73S)。
しかしこれらは、現場ができる応急対策をしただけで、過剰診断の発生をなくす改革と同時になされなければ、真の解決とはなりえない。そしてこのシリーズの寄稿や対談(関連記事『福島の甲状腺検査に見る「過剰診断の罪」』、「福島の甲状腺がん過剰診断に見る日本の宿痾」、『臨床医が見たがん「過剰診断」の衝撃』、『【動画】エビデンスで問い直すがん検診』)からも分かるように、甲状腺検査はスタート時点では分からなかったとしても、結果を見れば重大な過剰診断とそれに伴う被害が生じており、検査の見直しや中止が検討されるべきであった。
多くの英知を結集して開始された事業なので、まさか原発事故に被災した小児や若年者にさらなる被害を与える状況を見過ごすはずはないと信じていたが、それはあまりに楽観的過ぎた。現実は、過剰診断を生む甲状腺検査は、15年たつ今日も7回目の検査が継続している。
一方、福島の甲状腺検査の継続を主導したり協力したりしている専門家からは、発がんリスクの心配があるのだから甲状腺検査のようながんスクリーニングを行うのは当然という見解が今も述べられている。その理由を聞くと、「スクリーニング調査を行わないと放射線の影響は分からない。集団スクリーニングは多くの人に短時間で検査でき、放射線の不安の軽減となる」であった。
たしかにチョルノービリ原発事故後は、放射線影響の問題を明らかにするため、超音波診断機器の進歩に伴い甲状腺がんスクリーニング調査・研究が行われ、それが被災地にも役立つと考えられてきた。2011年段階では一理ある考えということで、現在の甲状腺検査が県民健康調査の大きな柱となった。すなわちこの問題の解決を阻んでいる一因には、「原発事故による放射線発がんへの住民の不安に、どのように対処すべきか」という考え方が異なることがある。
本稿では、放射線による甲状腺がんのリスク上昇が懸念される中でも、過剰診断が生じるスクリーニング調査を、原発事故後の対応の1つとして行うべきかどうかについて考えてみたい。
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