ドクターズアイ 加藤忠史(精神)

抗うつ薬にあらず!? 新薬ズラノロンの本質

有効活用するための加藤流処方箋

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景1:産後うつ病治療薬としては納得のメカニズム

 ズラノロン(Zuranolone)は、米国のSage Therapeutics社とBiogen社が開発した薬で、日本では塩野義製薬が開発を進め、昨年(2025年)12月22日付でうつ病・うつ状態を適応症とした日本での製造販売承認を取得し、今年3月19日に発売されたばかりの新薬である。

 適応症は「うつ病・うつ状態」となっているが、これまでの抗うつ薬とは、使い方、効き方、作用機序など、全ての点で異なっている。

 ズラノロンは、ブレキサノロン(Brexanolone)という、米国で点滴投与が承認されている薬の経口版である。ブレキサノロンは、実は体内に存在する活性物質、アロプログネノロン(Allopregnanolone)そのものである。

 アロプログネノロンは、プロゲステロン(黄体ホルモン)から代謝されてつくられる物質で、プロゲステロンのように遠くの臓器に働いてホルモンとして作用することはない一方、脳内でGABA-A受容体に結合する作用を持つことから、神経ステロイドと呼ばれる。

 以前、学会のセッションで、当時、米国立衛生研究所(NIMH)の所長だったジョシュア・ゴードン(Joshua Gordon)氏(現コロンビア大学教授)に、「過去20年、神経科学の基礎研究が臨床に結び付いたケースはほとんどないのでは」と質問した際に、彼が、基礎研究が臨床に結び付いた例として真っ先に挙げたのが、このブレキサノロンであった。

 妊娠中は、プロゲステロン高値に伴い、アロプログネノロンも高値を示す。出産時、妊娠を維持するプロゲステロンの作用を止めて、出産を促すため、20α-水酸化ステロイド脱水素酵素が活性化し、プロゲステロンは20α-水酸化プロゲステロンという不活性型に変換されるようになる。これに伴って、アロプログネノロンは急激に低下する。

 そして、産後うつ病患者では、うつ病を伴わない産後の女性と比較して、アロプログネノロンが有意に低値を示すことが見いだされた。この所見から、産後にアロプログネノロンを補えば産後うつ病が改善するのではないかと考えられ、開発されたのがブレキサノロンというわけである。開発された筋道も、そのメカニズムも、納得がいく。

加藤 忠史(かとう ただふみ) 

 順天堂大学精神医学講座主任教授。1988年東京大学医学部卒業、同病院で臨床研修、1989年滋賀医大精神医科大学講座助手、1994年同大学で医学博士取得、1995年米・アイオワ大学精神科に留学(10カ月間)。帰国後、1997年東京大学精神神経科助手、1999年同講師、2001年理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームリーダー、2019年理化学研究所脳神経科学研究センター副センター長を経て、2020年4月から現職。

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする