常識覆る? 非結核性抗酸菌にヒト・ヒト感染の可能性
気管切開患者を対象とした全国研究から
研究の背景:一部の呼吸器疾患ではNTMのヒト・ヒト感染が示唆されてきた
肺非結核性抗酸菌(NTM)症は世界的に増加傾向にあり、関連死亡率も上昇している。罹患率上昇の背景には、宿主側の基礎疾患の変化、診断技術の進歩、疾患認知度の向上などが挙げられるが、近年特に注目されているのがヒトからヒトへの伝播である。
教科書レベルでは、NTMはヒトからヒトには感染しないということを習った。しかしこの点について、NTMの1つであるMycobacterium abscessus species(MABS)に関する近年の複数の報告がこの常識を少しずつ覆しつつある。
米国では2012年に嚢胞性線維症の専門施設でMycobacterium abscessus subsp. massiliense (M. massiliense) が複数の患者から同時期に検出されたことから、ヒト・ヒト間のバイオエアロゾル伝播が強く疑われた(Am J Respir Crit Care Med 2012; 185: 231–232)。英国の嚢胞性線維症センターでも同様のアウトブレークが報告され、全ゲノム解析(WGS)により単一個体内の多様性を下回る遺伝学的均一性を持つM. massiliense株が複数患者から検出された(Lancet 2013; 381: 1551–1560、Emerg Infect Dis 2014; 20: 364–371)。さらに、嚢胞性線維症の患者以外でも院内伝播が疑われる事例が報告されてきた。
日本では気管切開患者にMABSによる重篤な肺炎が発症した報告もあり、バイオエアロゾル伝播は単なる定着にとどまらず、致死的な肺感染症を引き起こす可能性がある。このような背景から、嚢胞性線維症の患者が極めて少ないわが国において、気管切開を受けた長期療養患者におけるMABS分離の実態と遺伝学的特徴を全国規模で明らかにすることが望まれていた。
今回紹介する研究(J Hosp Infect 2026年5月20日オンライン版)は日本重症心身障害学会、国立病院機構、日本筋ジストロフィー協会などの加盟施設に呼びかけ、2023年11月~24年2月に全国47施設1,118例の気管切開患者を対象に、呼吸器検体からのMABS分離調査を実施したもので、大分大学呼吸器・感染症内科学講座教授の小宮幸作氏らの報告である。
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倉原 優 (くらはら ゆう)
国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科医師。2006年、滋賀医科大学卒業。洛和会音羽病院での初期研修を修了後、2008年から現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医、インフェクションコントロールドクター、音楽療法士。自身のブログで論文の和訳やエッセイを執筆(ブログ「呼吸器内科医」)。著書に『呼吸器の薬の考え方、使い方』、『COPDの教科書』、『気管支喘息バイブル』、『ねころんで読める呼吸』シリーズ、『本当にあった医学論文』シリーズ、『ポケット呼吸器診療』(毎年改訂)など。











