漢方はがん免疫療法の「場」を変えうるか
十全大補湯、腸内細菌、抗PD-1抗体から考える宿主相
研究の背景:漢方と腫瘍免疫をつなぐ腸内環境
腫瘍免疫の強さと質は、CD8陽性T細胞、制御性T細胞(Treg)、抗原提示、腫瘍所属リンパ節、腸内細菌叢、代謝物から成る連続した系の働きに左右される。近年、腫瘍免疫を腫瘍局所だけの現象としてではなく、宿主側の環境を含めた反応場として捉える視点が広がっている。
腫瘍免疫との関係でいうと、十全大補湯(Juzentaihoto;JTT)や人参養栄湯などのいわゆる補剤と呼ばれる漢方では、T細胞を介した抗腫瘍細胞傷害免疫の増強、腫瘍ワクチン効果の補助、CD8陽性T細胞依存的な抗腫瘍効果などがたびたび報告されている。膵がん同所移植マウスモデルにおいて、JTTとゲムシタビンの併用が腫瘍微小環境変化を伴い、control群、ゲムシタビン単独群、JTT単独群と比べて生存を延長したとするNapp氏らの研究も挙げられる(Front Oncol 2024; 14: 1454291)。
「宿主側の場」が変わるという現象は、漢方に限ったものではない。例えば、メトホルミンが腸内細菌叢を介して抗PD-L1抗体の効果を高め、CD8陽性T細胞浸潤やインターフェロン(IFN)-γ発現を増加させる可能性が報告されている(Genes Immun 2024; 25: 7-13)。この他、抗菌薬やプロトンポンプ阻害薬は腸内細菌叢を変化させるため、腫瘍免疫との関連では、好ましくない方向に働く可能性が示唆されている(Front Immunol 2021; 12: 716317)。つまり、腸内細菌叢は単なる背景因子ではなく、腫瘍免疫の反応性を左右しうる因子だと考えられている。
それ故、「漢方が腸内細菌叢や宿主免疫を介して、腫瘍免疫の状態に影響しうるか」という問いは十分に検証の対象になりうる。今回取り上げるYamaguchi氏らの研究は、その問いを前臨床モデルで可視化したものである(J Nat Med 2026; 80: 462-476)。
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