ドクターズアイ 佐々木香る(眼科)

「抗菌薬が角膜創傷治癒を遅延」の衝撃

脂質代謝を介した新機序をマウスで解明

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〔編集部から〕気鋭のドクターが独自の視点で論考を展開する人気連載「ドクターズアイ」の執筆陣に、今月から新たに関西医科大学眼科学教室病院教授の佐々木香る氏が加わりました。眼科領域を中心に、話題の最新論文を日常臨床の立場で徹底解説していただきます。

研究の背景:たかが点眼?抗菌薬使用で乱れる眼表面環境

 2015年、世界保健機関(WHO)が薬剤耐性(AMR)グローバル・アクションプランを採択してから約10年。われわれの体表面に存在する常在菌には、病原性を持つ微生物の増殖を抑制する働きがあり、その重要性が注目されるようになっている。抗菌薬の不適切使用が、常在菌の乱れ(dysbiosis)を生じる一番の原因だということも広く知られてきた。

 耐性菌の存在はペニシリン発見以前から指摘されており、抗菌薬を長期に不適切に使用すると、常在菌の乱れにより病原性微生物が選択的に増殖することも分かっている。そのため発熱、咳嗽、鼻水だけの患者に抗菌薬を投与すべきではなく、適正使用が求められている。

 点眼に関しても同じことがいえる。眼表面の常在菌を守るため、充血・眼脂だけで抗菌薬点眼をしてはならない。しかし、実際のところ「たかが点眼」という意識の下、長期に抗菌薬点眼を処方されている高齢者を見かける。その結果、現在、わが国では多くの高齢者の眼表面からキノロン高度耐性のコリネバクテリウムが検出される。

 今回紹介する慶應義塾大学/理研メタボローム研究チームの小川氏らの論文では、抗菌薬の全身・局所投与が眼表面dysbiosisを介して、脂質代謝の変化から炎症細胞に作用し、角膜上皮細胞の創傷治癒にも関与するという新たな局面が明らかになった(FASEB J 2026; 40: e71429)。

佐々木 香る(ささき かおる)

関西医科大学眼科学教室病院教授

1986年、大阪市立大学(現大阪公立大学)医学部卒業後、大阪大学医学部眼科学教室に入局。1994年、大阪大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。その後、九州の眼科専門施設に勤務し、主に角膜疾患の外科的治療や眼感染症疾患の臨床に携わる。2012年に帰阪し、地域医療機能推進機構(JCHO)星ヶ丘医療センター眼科部長を経て、2018年より関西医科大学に勤務。2023年より現職。角膜センター長併任。学術面では、2017年に第54回日本眼感染症学会総会長を務め、近年はAMR臨床リファレンスセンターでの講演などを通じ、眼科領域における抗菌薬適正使用の推進と啓発活動にも取り組んでいる。専門領域を通じて築いた多くの先生方との絆を礎に、日々の臨床と研究に真摯に取り組んでいる。

佐々木香る
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