ドクターズアイ 小島淳(循環器)

STEMI診療、ヘパリンが問う「治療開始」の前倒し

再灌流前治療の実装可能性

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研究の背景:なぜ今、PCI前のUFH投与が注目されるのか

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)診療の中心は、いうまでもなく速やかな再灌流である。現在の標準治療はprimary経皮的冠動脈インターベンション(PCI)であり、発症からバルーン拡張までの時間短縮、救急搬送体制、カテーテル治療ネットワークの整備によって、STEMIの予後は大きく改善してきた。

 一方で、primary PCIが成功しても全ての患者で同じように心筋救済が得られるわけではない。PCI前、すなわち初回冠動脈造影時に梗塞責任血管が既に開存している患者では、梗塞サイズが小さく、左室機能が保たれ、死亡や心不全発症が少ないことが知られている。

 この「PCI前に責任血管を少しでも開けておく」という発想は、決して新しいものではない。抗血小板薬、抗凝固薬、血小板膜糖蛋白(GP)Ⅱb/Ⅲa阻害薬など、さまざまな薬剤が病院前あるいはカテーテル室到着前に試みられてきた。しかし、成績は一貫していなかった。

 例えば、P2Y12阻害薬の前投与は理論的には魅力的であるが、STEMI急性期では消化管吸収の遅延、嘔吐、モルヒネ使用、循環不全などにより、内服薬としての即効性に限界がある。また、強力な抗血小板療法は出血リスクとのバランスが常に問題となる。

 こうした中、あらためて注目されているのが未分画ヘパリン(UFH)である。UFHはprimary PCI時の標準的な抗凝固薬として長く使用されており、安価で即効性があり世界中で利用可能である。救急隊あるいは救急医がSTEMIを診断した時点、すなわちfirst medical contact(FMC)でUFHを投与すれば、カテーテル室到着までの時間を抗凝固療法の「治療時間」に変えることができる。これは、複雑な新規薬剤を導入するというより、既にPCI時に使用している薬剤の投与タイミングを前倒しする戦略である。

 今回、Circulationに掲載されたHEPARIN-STEMI試験は、このシンプルだが臨床的に重要な問いに対し現代のSTEMIネットワークの中で検証したランダム化比較試験(RCT)である(2026; 153: 1526-1534)。Editorial(Circulation 2026; 153: 1535-1538)でも述べられているように、本研究はSTEMI診療の焦点が「カテーテル室内」から「STEMI診断直後の最初期」へ再び移りつつあることを示す論文として位置付けられる。

小島 淳(こじま すなお)

桜十字健康医科学研究所エグゼクティブディレクター、熊本大学客員教授

1993年熊本大学医学部卒業後、循環器内科に入局し、国立循環器病研究センターで臨床・研究に従事。熊本大学病院勤務を経て2006年に医学博士を取得。2018年川崎医科大学総合内科学主任教授、2020年熊本大学客員教授、2021年より桜十字八代リハビリテーション病院副院長、2026年より桜十字健康医科学研究所エグゼクティブディレクターを務める。日本内科学会、日本循環器学会、日本心臓病学会、日本超音波医学会、日本脈管学会、日本救急医学会、日本心臓リハビリテーション学会、日本痛風・核酸代謝学会など多数の専門医資格を有し、学術賞受賞や各種ガイドライン策定にも参画。研究は循環器内科学を基盤に、大気汚染と循環器疾患、尿酸代謝と心血管イベントの関連を中心とした大規模臨床研究・疫学解析を推進し、「医学と環境」を軸に国際的に成果を発信している。

小島 淳
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