大腸がん後方治療は「敗戦処理」ではない
ctDNAが映す抗EGFR抗体「再投与」のタイミング
研究の背景:後方治療の地図をどう描くか
後方治療という言葉を聞くと、かつての進行大腸がん診療では「標準治療を使い切った後に、残された薬剤を順番に使っていく治療(いわゆる敗戦処理)」という印象が強かった。
しかし、大腸がん後方治療はSUNLIGHT試験を境に意味を変えた。トリフルリジン・チピラシル (TAS-102:以下、TAS)とベバシズマブ(Bv)の併用が、TAS単剤に比べて全生存(OS)、無増悪生存(PFS)を有意に改善した(OS中央値10.8カ月 vs. 7.5カ月、PFS中央値5.6カ月 vs. 2.4カ月、いずれもP<0.001、N Engl J Med 2023; 388: 1657-1667)。さらに、全身状態(ECOG PS)0/1から2以上への悪化までの期間も延長している(Clin Colorectal Cancer 2025: 180-187.e4.)。すなわちTAS+Bvの本質は、強い奏効でconversion surgeryを狙うことではなく、後方治療で病勢進行の速度を落とし、全身状態を保ち、次の判断までの猶予をつくることにある。TAS+Bvは「時間を設計する基盤治療」と言えよう。
では、この基盤治療だけで後方治療は完結するかといえば、そうではない。RAS/BRAF野生型大腸がんには、抗EGFR抗体という強い選択肢がある。一次治療で抗EGFR抗体を投与すると、治療の選択圧によりRAS、BRAF、EGFR細胞外ドメインなどの耐性変異が出現して治療抵抗性が形成される。Parseghian氏らは、投与中止後にこれらの耐性クローンは減衰していくと報告している(Ann Oncol 2019; 30: 243-249)。RAS/EGFR変異クローンの累積半減期は約4.4カ月とされており、休薬期間も患者の「相」を動かす重要な時間と考えてよい。
後方治療の課題は、病勢進行を抑えてつくり出した時間で、いかに耐性クローンの“消え具合”を読み、再び抗EGFR抗体を刺せる相を見極めるかとなる。これを介入的に検討したCHRONOS試験では、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)でRAS/BRAF/EGFR-ECDなどの耐性変異を持つ約3割を除外した上で、rechallenge(再投与)例の約30%が奏効、63%が病勢制御を示した(Nat Med 2022; 28: 1612-1618)。ただし単群試験であり、標準治療との比較は欠いていた。
このctDNAガイド下での抗EGFR抗体re-treatment(再治療)を標準的後方薬とのシークエンスの中でランダム化して検証したのが、今回取り上げるPARERE試験である(Ann Oncol 2026; 37: 79-91)。この試験の意義は、単に「抗EGFR抗体の再投与は標準治療より効くのか」ではなく、TAS+Bv時代の後方治療地図の中で、「どの患者に、どのタイミングで抗EGFR抗体を再投与するか」を検討した点にある。(関連記事「大腸がん標的治療の前方化と後方治療の課題」)
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