ドクターズアイ 柳靖雄(眼科)

遺伝子治療の時代、AIが「疑うべき」を絞る

遺伝性網膜疾患候補予測を多施設RCTで検証

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研究の背景:「上位候補遺伝子」を的確に絞り込めるか?

 遺伝子治療の話題が外来に届く一方で、現場のボトルネックは「治せるか」ではなく「どの遺伝子を疑うか」に移りつつある。遺伝性網膜疾患(inherited retinal diseases;IRD)の外来で、患者から「自分は治る遺伝子型なのか」と問われる場面は、もはや例外ではない。

 しかし原因遺伝子は数百に及び、表現型は重なり、次世代シークエンシング(next-generation sequencing;NGS)に至るまでに時間がかかり、結果解釈と遺伝カウンセリングの負担は大きい。専門医であっても、画像と臨床情報だけで「上位候補遺伝子」を的確に絞り込むのは容易でない。では、その迷いを減らす道具は、どこまで臨床的に信頼できるのか。

 今回、Huixun Jia氏らは、網膜画像から17の遺伝子型カテゴリを予測する人工知能(AI)ベースの臨床医意思決定支援システム(clinician decision support system;CDSS)「Retina4IRD」を報告した(Nat Med 2026年7月24日オンライン版)。

 基盤は、眼底カラー写真(color fundus photography;CFP)と光干渉断層計(optical coherence tomography;OCT)、および年齢・性・発症年齢・罹病期間・家族歴などの臨床メタデータを統合するVision Transformerであり、網膜基盤モデルRETFoundで事前学習されている(図1)。

図1.研究デザイン

 私は本連載で、RETFoundに代表される眼科基盤モデル(foundation model)とGlobal RETFound Consortiumの意義を論じたが(関連記事「革新的基盤モデルで期待高まる医療AIの今後」)、今回の焦点は「モデルの面白さ」そのものではない。遺伝学的検査の前に、医師の候補遺伝子予測をどこまで押し上げられるかを、多施設ランダム化比較試験(RCT)で問うた点にある。

柳 靖雄(やなぎ やすお)

医療法人社団祥正会お花茶屋眼科手術外来院長、横浜市立大学視覚再生外科学客員教授、デューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor

東京大学医学部を卒業(1995年、MD)し、同大学大学院で医学博士号を取得(2001年、PhD)。基礎医学に強固な学術的バックグラウンドを持ち、200本以上の科学論文を執筆、国内外で10以上の賞を受賞。東京大学医学部眼科学教室講師(2012~15年)、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016~20年)、旭川医科大学眼科学教室教授(2018~20年)を歴任し、現在は横浜市立大学視覚再生外科学客員教授(2020年~)およびデューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor(2020年~)として国際共同研究に積極的に関与している。専門は黄斑疾患で、新規治療薬に関する特許を多数出願。スタンフォード大学とエルゼビア社が2024年に発表した「世界のトップ2%の科学者リスト」に選出された。DeepEyeVisionの取締役としてAI技術の開発に携わり、国際誌「TVST」や「Scientific Reports」の編集者としても日本のプレゼンス向上に貢献。都内のクリニックでは質の高い診療を提供し、地域医療にも尽力。現在、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究など多岐にわたる分野で積極的に活動している。

柳 靖雄
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