ドクターズアイ 岩井拓磨(消化器外科)

直腸がん患者に「肛門は残せますか」と聞かれたら

肛門温存 vs. 永久人工肛門、術後の機能障害とQOL

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研究の背景: 外科医は技術的に温存可能かを答えるが…

 低位直腸がんの診療では、患者からしばしば「肛門は残せますか」という質問を受ける。外科医は、腫瘍の位置、括約筋への浸潤、切除断端、術前治療の効果を考えながら、技術的に温存可能かを答える。しかし、患者が本当に知りたいのは、肛門という臓器が残るかどうかだけではない。手術後、どのように排便することになるのか。仕事を続けられるのか。外出や旅行はできるのか。夜は眠れるのか。そして、その生活を自分は受け入れられるのか。すなわち、「肛門は残せますか」の背後には「手術後、私はどのように生きることになるのか」という、もう1つの問いが隠れている。

 直腸がん手術の進歩は、局所制御の向上とともに、括約筋温存率の上昇として語られてきた。永久人工肛門を回避できることは多くの患者にとって明確な利益であり、腫瘍学的安全性が担保されるなら、肛門温存を目指すことには十分な理由がある。ただし、解剖学的に肛門が残ることと、良好な排便機能が残ることは同義ではない。低位前方切除(LAR)後には、頻便、便意切迫、分割排便、便失禁、排便困難などから成るlow anterior resection syndrome(以下、LARS)が生じうる。自然肛門から排便できても、1日の行動が排便に支配されることがある。一方、腹会陰式直腸切断術(APR)後の永久人工肛門は、装具管理、漏れ、皮膚障害、身体像の変化、社会生活上の制約など、別の負担を患者に課す。

 比較すべきは、正常な自然肛門と人工肛門ではない。現実の選択肢は、しばしば、機能障害を伴いうる肛門温存後の生活と、永久人工肛門を伴う生活との間にある。では、両者の全般的なQOLに優劣はあるのだろうか。Ju氏らの比較研究を手がかりに考えたい(World J Surg 2026; 50: 1775-1785)。

岩井 拓磨(いわい たくま)

日本医科大学 消化器外科 病院講師

2007年日本医科大学 医学部卒業。同大学 消化器外科に入局し、助教、関連病院勤務を経て、同大学院 外科学講座にて博士号を取得(2018年Ph.D.)。大学院在学中には、Liquid Biopsyを用いた腫瘍評価法(第7215675号)や、血中DNA分解酵素活性を利用した絞扼性腸閉塞診断法(第6844833号)を開発し、特許取得するなど、臨床現場の課題解決に早くから注力。現在は大腸癌の手術・薬物療法を軸とした集学的治療のエキスパートとして臨床に当たる傍ら、個別化治療の最適化を目指したトランスレーショナルリサーチにも取り組む。

主な所属:日本内視鏡外科学会(評議員・技術認定医)、日本大腸肛門病学会(評議員・専門医)、日本外科学会(専門医・指導医)、日本消化器外科学会(専門医・指導医)、日本消化器病学会(関東支部評議員・専門医・指導医)、ESMO memberほか。

岩井 拓磨
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