ドクターズアイ 岩井拓磨(消化器外科)

「高齢だから治療を控える」を疑う

高齢者大腸がん777例から見直す、有害事象予測の壁

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研究の背景:年齢やPSが同じでも、有害事象は異なる

 高齢大腸がん診療では、年齢とECOG performance status(全身状態、以下PS)が治療方針に強い影響を持つ。「80歳を超えているから単剤で」「PSが良いから2剤併用で」――。こうした判断は日常的で、一定の合理性もある。しかし、年齢やPSが同じでも、化学療法を継続できる患者もいれば、早期に継続困難となる患者もいる。

 従来の治療では、病期、遺伝子異常、腫瘍量、治療ラインなど、主として「腫瘍側」の情報を精緻化してきた。一方、治療を実際に受け止めるのは患者の身体である。臓器機能、栄養状態、認知機能、日常生活の自立度といった「宿主側」の予備能は、しばしば高齢やフレイル(frail)といった一語に畳み込まれ、治療を控える理由として使われる。

 だが本来、宿主予備能は治療を断念するラベルではなく、治療強度、支援、モニタリングを組み替えるための情報である。高齢がん患者の重篤な有害事象を予測するツールとして知られるCRASHスコアやCARGスコアは、複数のがん種を横断するコホートから作られた尺度であり、例えばCRASHに占める大腸がん患者は12%にすぎない。独立コホートでの検証では両スコアとも予測性能が不十分で(Oncologist 2023; 28(6): e341-e349)、大腸がん症例に特化した検証も乏しい。

 この問題に大腸がんに特異的なデータで迫ったのが、Rémond氏らによる統合解析である。高齢大腸がん患者を対象とした臨床試験3件、前向きコホート研究3件を束ね、治療開始後早期のGrade 3以上の有害事象と関連する因子を検討している(Eur J Cancer 2026; 245: 116935)。

岩井 拓磨(いわい たくま)

日本医科大学 消化器外科 病院講師

2007年日本医科大学 医学部卒業。同大学 消化器外科に入局し、助教、関連病院勤務を経て、同大学院 外科学講座にて博士号を取得(2018年Ph.D.)。大学院在学中には、Liquid Biopsyを用いた腫瘍評価法(第7215675号)や、血中DNA分解酵素活性を利用した絞扼性腸閉塞診断法(第6844833号)を開発し、特許取得するなど、臨床現場の課題解決に早くから注力。現在は大腸癌の手術・薬物療法を軸とした集学的治療のエキスパートとして臨床に当たる傍ら、個別化治療の最適化を目指したトランスレーショナルリサーチにも取り組む。

主な所属:日本内視鏡外科学会(評議員・技術認定医)、日本大腸肛門病学会(評議員・専門医)、日本外科学会(専門医・指導医)、日本消化器外科学会(専門医・指導医)、日本消化器病学会(関東支部評議員・専門医・指導医)、ESMO memberほか。

岩井 拓磨
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