ドクターズアイ 菅野義彦(腎臓内科)

75歳以上のCKD患者への腎移植、その是非を問う

短期リスクと長期利益を検証

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研究の背景:以下、日本では無用のことながら…、後期高齢者の腎移植予後を評価

 わが国は移植医療の規模が極めて小さい国であることは、学生でもよく知っている。しかしこれは非専門家の思い込みであって、心臓、肺、肝臓の移植件数は2000年ころには年間5件程度(臓器提供数/移植数)であったが、昨年(2025年)にはいずれも100件を超えている(日本臓器移植ネットワーク)。

 代替療法と比べ、移植ではレシピエントのQOLが劇的に改善することが示されており、関係者の献身的な努力が着実に実を結びつつある。それでも、人口比で見ると施行件数は欧米や韓国とは比較にならない件数にとどまってしまう。

 腎移植については、施行件数が約150件から2倍近くまで増加している。その背景には、血液型不適合の生体腎移植が可能となったことに加え、夫婦間での生体腎移植が増加していることも影響していると考えられる。もちろんこれも欧米に比べれば数としては圧倒的に少なく、日本の腎代替医療の特徴とされている。

 そうした背景を踏まえると、今回論文で取り上げる75歳以上の後期高齢者への腎移植に関する短期リスクと長期メリットの評価研究は、わが国の現状からするといまだ別世界の話ともいえる(Am J Kidney Dis 2026; 88: 356-365)。司馬遼太郎のエッセイ集のタイトルを借りれば、「以下、日本では無用のことながら」と前置きが必要なテーマである。

 さて、論文の著者であるNapat Leeaphorn博士は、名門米・Mayo Clinicで腎移植を専門とする臨床研究家である。Leeaphorn博士は、タイ最古の国立大学であるChulalongkorn Universityをトップクラスで卒業し、渡米後Beth Israel Deaconess Medical Center in Bostonなどでトレーニングを受け、現職に至る若手研究者である。

 筆者が留学した米国の研究室にも、タイの国立大学を卒業し、医師国家試験で首席と6位という優秀な成績を収めた夫婦が在籍していた。現在も米国で活躍している。生活環境や研究環境を考えれば、このような頭脳流出もやむをない面がある。しかし、海外に定着した人材が研究成果を挙げ、その論文が母国でも高く評価されるのであれば、それも国勢の一側面と捉えることができる。そうであれば、彼らは国外で活動しながらも、国立大学卒業生としての義務は果たしているといえるのかもしれない。

菅野 義彦(かんの よしひこ)

東京医科大学腎臓内科学分野主任教授

1991年慶應義塾大学医学部卒業。同大学院進学後、米国ジョージワシントン大学、国立衛生研究所に留学。埼玉医科大学腎臓内科、医学教育センター、慶應義塾大学医学部血液浄化・透析センターを経て2013年より現職。2018年より大学病院副院長(医療安全・危機管理)、2024年より大学副学長補佐を務める傍ら2021年システムデザインマネジメント学修士、2025年教育学修士を取得。腎臓・高血圧・透析領域のみならず感染症、老年医学、医学教育などの専門資格を有する。また臨床栄養学に関するオピニオンリーダーの1人でもあり、日本臨床栄養学会、日本病態栄養学会の理事を務める。

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