ドクターズアイ 柚木一馬(麻酔科)

「術前絶飲食は前夜0時から」を再考する

成人・小児対象のレビュー・メタ解析で検討

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研究の背景:米GLは2時間/6時間前まで飲食可能としているが…

 手術前に飲食を控える最大の目的は、麻酔中の誤嚥を防ぐことである。全身麻酔や深い鎮静では咳反射や嚥下反射などの気道防御機構が低下し、逆流した胃内容物が気道内へ流入すると、気道閉塞や重篤な肺障害を来しうる。そのため一定時間の絶飲食が行われる。麻酔科医にとっては日常的な安全対策だが、非麻酔科医にとってその理由は必ずしも自明ではない。

 ただし、「誤嚥予防のため絶飲食が必要」であることと、「長く絶飲食させるほど安全」であることは同義ではない。1946年のC. L. Mendelson氏による報告以降、“NPO after midnight(前夜0時以降は飲食禁止)”が広く定着した(Am J Obstet Gynecol 1946; 52: 191-205)。一方、米国麻酔科学会(ASA)は1999年、予定手術を受ける健常患者では透明な飲料を麻酔・処置2時間前まで、軽食を6時間前まで摂取可能とするガイドライン(GL)を公表した。この基本原則は、その後の改訂でも維持されている。

 では、患者は実際に何時間飲食を控えているのだろうか。2026年、S. Lam氏らがAm J Surgに発表したレビュー・メタ解析では、成人の実測絶飲時間は10.3時間、絶食時間は13.5時間、小児ではそれぞれ7.1時間、12.2時間だった(全て平均値。2026; 259: 117012)。GL上は透明な飲料を2時間前まで摂取できても、現実にはその何倍もの時間、飲水を控えているのである。

柚木 一馬(ゆのき かずま)

神戸市立医療センター中央市民病院麻酔科・集中治療部医長

2007年京都大学医学部卒業。高山赤十字病院にて初期臨床研修を修了後、2009年より神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)にて麻酔科専門研修を開始。麻酔科専門医・指導医、集中治療科専門医、心臓血管麻酔専門医を取得。2017年より米・University of Pittsburgh Medical Center麻酔科に留学し、麻酔科専門医教育およびシミュレーション医学教育に関する研究に従事。2018年に神戸市立医療センター中央市民病院麻酔科・集中治療部へ復帰し、現在は医長を務める。2024年には兵庫県立大学大学院MBAコースを修了。専門領域は麻酔・集中治療全般。特に産科麻酔、心臓血管麻酔、臨床医学教育、シミュレーション医学教育、Quality Improvement(QI)、手術室運営に関心を持ち、臨床・教育・マネジメントの各側面から周術期医療の質向上に取り組んでいる。

柚木一馬
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