ドクターズアイ 柳靖雄(眼科)

「消えたポリープ状病巣」に投与は不要か?

未治療PCVへのファリシマブ単群試験

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする

研究の背景:PCVは「難治」なのか、「ポリープが閉じない」だけなのか

 ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy;PCV)は、アジア人の新生血管型加齢黄斑変性(neovascular age-related macular degeneration;nAMD)の最大55%を占める。にもかかわらず、この疾患は長く「治療困難」と形容されてきた。表現型が不均一で、黄斑出血を起こしやすく、抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)療法への反応が読みにくいためである。無治療で経過すれば、出血・網膜色素上皮(retinal pigment epithelium;RPE)の萎縮・持続する滲出により、およそ50%で有意な視力低下に至る。

 もっとも、難治の中身は一様ではない。視力に関していえば、抗VEGF単剤療法でも1年の成績は決して悪くない。問題はポリープ状病巣そのものの制御である。単剤療法での完全退縮率は、EVERESTⅡ試験で52週時33.8%(JAMA Ophthalmol 2020; 138: 935-942)、PLANET試験で52週時38.9%(JAMA Ophthalmol 2018; 136: 786-793)、PULSAR試験の PCVコホートで48週時37~47%(JAMA Ophthalmol 2026; 144: 129-137)にとどまった。単剤治療を終えた時点で半数以上に灌流の残るポリープ状病巣が認められたとする報告もある。

 灌流したポリープ状病巣は突然の出血源になりうる。だからこそ、ベルテポルフィン光線力学療法(photodynamic therapy;PDT)の併用が選択肢として残ってきた。しかしPDTには、レーザーとベルテポルフィンへのアクセスという制約に加え、脈絡膜毛細血管板とRPEへの傷害、脈絡膜虚血、続発性脈絡膜血管新生という代償がある。

 こうした中、作用機序の異なるVEGF阻害薬ファリシマブが登場した。アンジオポエチン-2(Ang-2)は網膜血管のVEGFに対する感受性を高め、異常な血管増殖と透過性亢進に寄与する。ファリシマブはAng-2とVEGF-Aを同時に阻害する二重特異性抗体である。ただし、第Ⅲ相試験TENAYA/LUCERNEではインドシアニングリーン蛍光造影(indocyanine green angiography;ICGA)の施行が限られ、PCVと診断された患者は約1%にすぎなかった(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 2023; 261: 3125-3137)。PCVに対する成績は事実上、空白だったのである。

 今回紹介するのは、その空白を埋めるために設計された第Ⅲb/Ⅳ相試験SALWEENである(Ophthalmol Retina 2026年8月12日オンライン版)。

柳 靖雄(やなぎ やすお)

医療法人社団祥正会お花茶屋眼科手術外来院長、横浜市立大学視覚再生外科学客員教授、デューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor

東京大学医学部を卒業(1995年、MD)し、同大学大学院で医学博士号を取得(2001年、PhD)。基礎医学に強固な学術的バックグラウンドを持ち、200本以上の科学論文を執筆、国内外で10以上の賞を受賞。東京大学医学部眼科学教室講師(2012~15年)、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016~20年)、旭川医科大学眼科学教室教授(2018~20年)を歴任し、現在は横浜市立大学視覚再生外科学客員教授(2020年~)およびデューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor(2020年~)として国際共同研究に積極的に関与している。専門は黄斑疾患で、新規治療薬に関する特許を多数出願。スタンフォード大学とエルゼビア社が2024年に発表した「世界のトップ2%の科学者リスト」に選出された。DeepEyeVisionの取締役としてAI技術の開発に携わり、国際誌「TVST」や「Scientific Reports」の編集者としても日本のプレゼンス向上に貢献。都内のクリニックでは質の高い診療を提供し、地域医療にも尽力。現在、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究など多岐にわたる分野で積極的に活動している。

柳 靖雄
  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする