ドクターズアイ 岩井拓磨(消化器外科)

標的治療が効く間、腫瘍は何をしているのか

大腸がん、KRAS阻害薬の可能性を考える

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研究の背景:KRAS G12C標的治療の登場と、効果持続への課題

 KRAS G12C変異を有する転移性大腸がんは、全体の約3~4%を占め、これまで予後不良との関連が報告されてきたサブグループである。今年(2026年)発表されたメタ解析でも、他のRAS変異大腸がんと比較した全生存(OS)の統合ハザード比(pooled HR)は1.28(95%CI 1.10~1.48)と報告され、この集団の予後不良を支持する結果であった(Oncologist 2026; 31: oyag219)。こうした背景から、KRAS G12Cを直接標的とする薬物療法は、従来の治療成績を改善すると期待されてきた。

 KRAS G12Cを直接阻害する薬剤は、非小細胞肺がんでは単剤で臨床効果を示した一方、同じ変異を持つ大腸がんでは効果が限定的であった。前臨床研究では、大腸がんにおいてKRAS G12Cを阻害すると、上皮増殖因子受容体(EGFR)を介したMAPKシグナルの再活性化が起こり、EGFRを同時に阻害することで抗腫瘍効果が高まることが示された(Cancer Discov 2020; 10: 1129-1139)。この知見が、KRAS G12C阻害薬と抗EGFR抗体を併用する治療戦略の根拠となった。

 第Ⅲ相多施設非盲検ランダム化比較試験CodeBreaK 300では、化学療法抵抗性のKRAS G12C変異陽性転移性大腸がんを対象に、KRAS阻害薬ソトラシブ+抗EGFR抗体パニツムマブと、医師選択による標準治療(トリフルリジン・チピラシルまたはレゴラフェニブ)を比較した。無増悪生存(PFS)中央値は、標準治療群の2.0カ月に対し、ソトラシブ960mg併用群では5.6カ月と、有意な延長を示した(HR 0.48、95%CI 0.30~0.78、P=0.005、N Engl J Med 2023; 389: 2125-2139)。ソトラシブ+パニツムマブ併用療法は、日本でも昨年9月、化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能進行・再発大腸がんに対して承認された。

 しかし、KRASとEGFRを同時に阻害しても、治療効果の持続には課題が残る。効果をさらに長く保つには、標的を抑えた後にがん細胞がどのように適応するのかを理解する必要がある。今回紹介するAlonso氏らの研究は、治療前、治療早期、増悪時の連続生検に遺伝子解析と空間トランスクリプトーム解析を組み合わせ、遺伝子異常および細胞状態の変化の両面から、KRAS阻害薬への耐性を検討したものである(Cancer Cell 2026; 44: 1368-1380.e8)。

岩井 拓磨(いわい たくま)

日本医科大学 消化器外科 病院講師

2007年日本医科大学 医学部卒業。同大学 消化器外科に入局し、助教、関連病院勤務を経て、同大学院 外科学講座にて博士号を取得(2018年Ph.D.)。大学院在学中には、Liquid Biopsyを用いた腫瘍評価法(第7215675号)や、血中DNA分解酵素活性を利用した絞扼性腸閉塞診断法(第6844833号)を開発し、特許取得するなど、臨床現場の課題解決に早くから注力。現在は大腸癌の手術・薬物療法を軸とした集学的治療のエキスパートとして臨床に当たる傍ら、個別化治療の最適化を目指したトランスレーショナルリサーチにも取り組む。

主な所属:日本内視鏡外科学会(評議員・技術認定医)、日本大腸肛門病学会(評議員・専門医)、日本外科学会(専門医・指導医)、日本消化器外科学会(専門医・指導医)、日本消化器病学会(関東支部評議員・専門医・指導医)、ESMO memberほか。

岩井 拓磨
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