ドクターズアイ 大前憲史(泌尿器)

尿意切迫感に「全身性感覚過敏」が潜む?

過活動膀胱患者617例対象の多施設観察研究

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研究の背景:「膀胱の異常」だけでは説明できない

 過活動膀胱(overactive bladder;OAB)は、「尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿・夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともあれば伴わないこともある」症候群である。泌尿器科医にとって極めてありふれた病態であるにもかかわらず、中心症状である尿意切迫感がなぜ生じるのかについては、実のところ十分に分かっていない。

 その象徴が、尿意切迫感を有する患者の全てに尿流動態検査上の排尿筋過活動が認められるわけでないという事実である。つまり、「膀胱が勝手に収縮するから尿意切迫感を感じる」という単純な図式だけでは、多くの患者の症状を説明できない。

 そこで近年、膀胱から上行する感覚入力を中枢神経系がどのように認識・処理しているのかという、感覚の受け取り側の要因にも注目が集まっている。今回紹介する研究も、この流れに位置付けられる(J Urol 2026; 216: 250-257)。

 筆頭著者の米・アイオワ大学泌尿器科教授のH. H. Lai氏は、長年にわたり間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(interstitial cystitis/bladder pain syndrome;IC/BPS)、慢性骨盤痛、OABなどを、膀胱局所だけでなく中枢神経系の感覚処理や全身性の感覚増幅(sensory amplification)という観点から研究してきた。彼らが着目したのは、全身性感覚過敏(generalized sensory sensitivity;GSS)という概念である。

 GSSとは、単に痛みに敏感であることを意味しない。例えば強い光、音、化学物質などの外界からの刺激に過敏であること、動悸、口渇、平衡感覚など体内から生じる感覚を強く認識すること、さらに身体の広い範囲に痛みを感じることなどを包括する概念である。もし、OAB患者の一部でこうした全身的な感覚過敏が存在するとすれば、尿意切迫感は「膀胱だけの異常」ではなく、膀胱充満という内臓感覚を過剰に認識する全身的な感覚処理特性の一表現である可能性が出てくる。同氏らは多施設の研究データを用い、この仮説を検討した。

大前 憲史(おおまえ けんじ)

福島県立医科大学病院臨床研究教育推進部部長・特任准教授

2003年、名古屋大学医学部卒業。臨床研修後10年間、がん手術を中心に泌尿器科医として研鑽を積む。東京女子医科大学泌尿器科(助教)、京都大学大学院医療疫学分野(博士後期課程)、福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター(研究フェロー)などを経て、2026年より現職。専門は泌尿器科学×臨床疫学。臨床業務に携わりながら、臨床研究における方法論的な観点から研究や教育活動に従事。社会健康医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、社会医学系専門医、日本臨床疫学会上席専門家、日本老年泌尿器科学会評議員の他、学会機関誌の編集委員も務める。良質なエビデンスをいかに効率的かつ効果的にユーザーに届けられるかが近年の関心事。著書に『医学論文査読のお作法 査読を制する者は論文を制する』(健康医療評価研究機構)などがある。

大前 憲史
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