研究の背景:局所進行直腸がんの治療には大きな代償 直腸がんは甘い疾患ではない。切除可能な直腸がんでは、術前放射線化学療法・手術療法・補助化学療法の3つを組み合わせて行うアプローチが最も "完治" の可能性が高まるとされる。 しかしながら、その "完治" の代償として、手術や放射線により排便・排尿・生殖機能(妊孕性)を犠牲にすることや、化学療法に起因する神経障害を受け入れることが当たり前のように求められる。それにもかかわらず、治療を受けた後には、およそ3分の1の患者が遠隔転移や局所再発を来し、最終的には死亡する。 近年、術前放射線化学療法で臨床的完全奏効(cCR)が認められた患者の一部には、手術を施行せずとも、根治的手術を受けた患者と同等の腫瘍学的転帰が得られる症例が存在することが分かってきた(Watch-and-wait strategy)。手術を回避することができれば、排便・排尿・生殖機能が損なわれず大変魅力的な治療戦略であるが、残念ながら現行の術前放射線化学療法では、cCR率はせいぜい3割と低く、大きながんや全周性のがんではcCR率はさらに低下する。 今回紹介する論文は、米・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのLuis A. Diaz Jr.氏らが主導したもので、切除可能なミスマッチ修復機構欠損(dMMR)直腸がんに対して、新規免疫チェックポイント阻害薬(ICI)であるdostarlimabを6カ月間、術前治療として投与したところ、驚くべきことに試験に参加した患者全員でcCRが観察されたという(N Engl J Med 2022; 386: 2363-2376)。 同論文は、Oncology Tribuneでも紹介されているが、別の角度から解説したい。(関連記事「新規抗PD-1抗体がdMMR直腸がんで著効」)