ドクターズアイ 柳靖雄(眼科)

眼炎症リスクをも低減するGLP-1への期待と疑念

代謝薬のさらなる新展開は?

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研究の背景:代謝治療の枠を超えた広がり

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、もともと血糖降下と体重減少を目的とした2型糖尿病および肥満症の治療薬であり、インスリン分泌促進、グルカゴン抑制、食欲制御といった代謝経路を巧みに操作する薬剤である。GLP-1RAの糖尿病網膜症(DR)への影響は全体としてリスク低下を示す研究が増えている一方、特定条件下での早期悪化リスクも報告されている(関連記事「〔動画で解説〕糖尿病網膜症の連携ポイント」)。

 興味深いことに近年、GLP-1RAの作用は代謝調節の領域を大きく超えて広がりつつある。炎症や免疫の調節、臓器保護、さらには眼科領域における疾患リスク調整まで、GLP-1RAがもたらす生物学的影響は、これまで想定されていたよりもはるかに多面的である。

 特に注目すべきは、GLP-1RAが強力な抗炎症作用を有し、炎症性サイトカインの抑制や免疫細胞の機能変化を引き起こすという一貫した証拠である(Pharmacol Res 2022; 182: 106320)。マクロファージの抗炎症型へのシフト、インターロイキン(IL)-10の増加、TNFα、IL-1β、IL-6の減少といったものは、もはや代謝薬としての副次的効果とは呼べないほど明確になってきた感がある。さらに、心血管系や腎臓に対する保護効果、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)への有益性、そして緑内障や加齢黄斑変性におけるリスク低減の可能性が示されつつあり、GLP-1RAの作用領域は極めて広く、多彩である。そこで今回は、GLP-1RAとぶどう膜炎リスクの関連を検討した論文を紹介したい(JAMA Ophthalmol 2025; 143: 823-832)。

柳 靖雄(やなぎ やすお)

医療法人社団祥正会お花茶屋眼科手術外来院長、横浜市立大学視覚再生外科学客員教授、デューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor

東京大学医学部を卒業(1995年、MD)し、同大学大学院で医学博士号を取得(2001年、PhD)。基礎医学に強固な学術的バックグラウンドを持ち、200本以上の科学論文を執筆、国内外で10以上の賞を受賞。東京大学医学部眼科学教室講師(2012~15年)、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016~20年)、旭川医科大学眼科学教室教授(2018~20年)を歴任し、現在は横浜市立大学視覚再生外科学客員教授(2020年~)およびデューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor(2020年~)として国際共同研究に積極的に関与している。専門は黄斑疾患で、新規治療薬に関する特許を多数出願。スタンフォード大学とエルゼビア社が2024年に発表した「世界のトップ2%の科学者リスト」に選出された。DeepEyeVisionの取締役としてAI技術の開発に携わり、国際誌「TVST」や「Scientific Reports」の編集者としても日本のプレゼンス向上に貢献。都内のクリニックでは質の高い診療を提供し、地域医療にも尽力。現在、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究など多岐にわたる分野で積極的に活動している。

柳 靖雄
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