ドクターズアイ 小島淳(循環器)

AI聴診器は本当に診断を早めるのか

英国の大規模RCTが示す実装の壁

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:ギャップを埋める可能性を持つAI聴診器

 今年(2026年)1月、人工知能(AI)搭載聴診器の大規模実装試験TRICORDERの結果がLancetに報告された2026; 407: 704-715)。心不全、心房細動、心臓弁膜症という頻度が高く、しかも診断の遅れが予後に直結する3疾患を、15秒の心音・単誘導心電図記録で同時に検出するという野心的な試みである。

 近年、AIは循環器領域で急速に進歩している。心電図から左室駆出率(LVEF)低下を推定する技術や、心音から弁膜症を検出するアルゴリズムは、検証研究では高い精度を示してきた。しかし、多くの研究は性能評価にとどまっている。

 TRICORDERが画期的なのは、「AIが現場で本当に役立つのか」をランダム化比較試験(RCT)で検証した点にある。

 心不全の最大の問題点は診断の遅れにある。英国では心不全の70%以上が緊急入院を契機に診断されると報告されている(BMJ Health Care Inform 2023; 30: e100718)。しかし、その半数は入院前にプライマリケアを受診しており、より早期に疑いを持てた可能性が示唆されている(Heart 2018; 104: 600-605)。

 心房細動も同様である。未診断の心房細動は脳梗塞発症後に初めて明らかになることが少なくない。弁膜症も、症状出現後や救急入院時に診断される例が多い。

 AI聴診器は、そのギャップを埋める可能性を持つ技術として登場した。通常の聴診に15秒追加するだけで、AIが①LVEF 40%以下の心不全、②心房細動、③構造的弁膜症-の有無をリアルタイムに提示する。アルゴリズムは既に規制当局の承認を受けており、性能も報告されている。しかし、アルゴリズムが優秀であることと、医療現場で成果を出すことは別問題である。

小島 淳(こじま すなお)

桜十字八代リハビリテーション病院副院長、熊本大学客員教授

1993年熊本大学医学部卒業後、循環器内科に入局し、国立循環器病研究センターで臨床・研究に従事。熊本大学病院勤務を経て2006年に医学博士を取得。2018年川崎医科大学総合内科学主任教授、2020年熊本大学客員教授、2021年より桜十字八代リハビリテーション病院副院長を務める。日本内科学会、日本循環器学会、日本心臓病学会、日本超音波医学会、日本脈管学会、日本救急医学会、日本心臓リハビリテーション学会、日本痛風・核酸代謝学会など多数の専門医資格を有し、学術賞受賞や各種ガイドライン策定にも参画。「くまもとハートの会」代表理事として地域医療にも尽力する。研究は循環器内科学を基盤に、大気汚染と循環器疾患、尿酸代謝と心血管イベントの関連を中心とした大規模臨床研究・疫学解析を推進し、「医学と環境」を軸に国際的に成果を発信している。

小島 淳
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