ドクターズアイ 柳靖雄(眼科)

見えない老化を可視化!「網膜年齢ギャップ」

予防・個別化医療を切り開くAIによる眼底の新指標

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研究の背景:網膜年齢と実年齢のギャップが示す生物学的意義

 超高齢社会である日本をはじめ、加齢は世界的な主要健康課題である。しかし、加齢に伴う疾患は全ての人に同様に現れるわけではない。個々人の老化の進行具合は必ずしも暦年齢とは合致せず、年齢による老化の度合いが異なる「生物学的年齢」と呼ぶべきものがあると考えられるようになっている。生物学的年齢の予測には、DNAメチル化やテロメア長といった高価で複雑な検査を要するバイオマーカーに主眼が置かれてきた。

 他方、網膜は全身の健康状態を知る「窓」であり、中枢神経系の延長であり、かつ非侵襲的に微小血管系および神経組織を直接観察しうる人体唯一の部位である。ゆえに、人工知能(AI)の深層学習モデルにより眼底写真から推定される「網膜年齢(Retinal Age)」と「実年齢(Chronological Age)」との乖離、すなわち網膜年齢ギャップ(RAG)は、個体の生物学的な摩耗度を示す、容易に解析可能な極めて高精度のバイオマーカーとして注目されている。

 米・Googleが、眼底写真から極めて高い精度で年齢が推定できるという衝撃の報告をして以来(Nat Biomed Eng 2018; 2: 158-164)、RAGの拡大(Positive RAG)は全身の加速老化、ひいては死亡リスクや心血管・代謝性疾患の増加と密接に関連するという報告が相次いでいる。

 生物学的老化には、ライフスタイルや生理学的指標といった「修正可能な因子」が深く関与している。従来の暦年齢に依存したリスク評価を、個々人の「生物学的真実」であるRAGに基づく評価へと昇華させるパラダイムシフトが、今まさに起きようとしている。今回は、オーストラリアの地域住民横断研究(Busselton Healthy Ageing Study;BHAS)を紹介する(Geroscience 2026年3月6日オンライン版)。

柳 靖雄(やなぎ やすお)

医療法人社団祥正会お花茶屋眼科手術外来院長、横浜市立大学視覚再生外科学客員教授、デューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor

東京大学医学部を卒業(1995年、MD)し、同大学大学院で医学博士号を取得(2001年、PhD)。基礎医学に強固な学術的バックグラウンドを持ち、200本以上の科学論文を執筆、国内外で10以上の賞を受賞。東京大学医学部眼科学教室講師(2012~15年)、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016~20年)、旭川医科大学眼科学教室教授(2018~20年)を歴任し、現在は横浜市立大学視覚再生外科学客員教授(2020年~)およびデューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor(2020年~)として国際共同研究に積極的に関与している。専門は黄斑疾患で、新規治療薬に関する特許を多数出願。スタンフォード大学とエルゼビア社が2024年に発表した「世界のトップ2%の科学者リスト」に選出された。DeepEyeVisionの取締役としてAI技術の開発に携わり、国際誌「TVST」や「Scientific Reports」の編集者としても日本のプレゼンス向上に貢献。都内のクリニックでは質の高い診療を提供し、地域医療にも尽力。現在、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究など多岐にわたる分野で積極的に活動している。

柳 靖雄
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