レミフェンタニルPCA分娩鎮痛をどう位置付けるか
OAAガイダンスから考える安全管理の条件
研究の背景:レミフェンタニルを投与するだけでは不適切
分娩鎮痛の中心は、現在も硬膜外鎮痛をはじめとする神経幹麻酔である。鎮痛効果、母体満足度、分娩経過への影響、安全性のバランスを総合的に見れば、硬膜外鎮痛が標準的選択肢であることに異論は少ない。
しかし、実臨床では硬膜外鎮痛を実施できない、あるいは実施しにくい場面が確実に存在する。血小板減少、抗凝固療法中、脊椎疾患・脊椎術後、穿刺困難、感染リスク、あるいは患者本人が硬膜外を希望しない場合などが代表例である。こうしたケースでは、従来の全身性オピオイドや亜酸化窒素だけでは鎮痛が不十分なことも多い。
そこで近年注目されているのが、レミフェンタニルを用いたpatient-controlled analgesia(PCA)、すなわち患者自己調節鎮痛法である。レミフェンタニルは超短時間作用性オピオイド鎮痛薬であり、作用発現と消失がともに速く、間欠的に増強する陣痛のパターンに理論的には適している。現在の全身麻酔鎮痛では不可欠な薬剤であり、麻酔科医にとって使用経験の豊富な薬剤でもある。
一方、同薬には母体の鎮静・呼吸抑制・酸素飽和度低下という明確なリスクが伴う。実際、国内でもレミフェンタニルPCAによる無痛分娩中に母体が心肺停止に至った事例が報告されており、日本麻酔科学会による「レミフェンタニルを用いた分娩時鎮痛に関する提言」(2024年)では、「自発呼吸下の妊婦に対して分娩時の鎮痛目的でレミフェンタニルを投与することは不適切である」と明確に非推奨の立場を示している。「薬剤をPCAで投与する」だけでは安全な運用には程遠く、スタッフ配置、モニタリング、緊急対応、教育を一体として整備することが不可欠である。
今回紹介するのは、英国産科麻酔学会(Obstetric Anaesthetists' Association;OAA)が、文献レビューと専門家合意に基づいて作成した、分娩時レミフェンタニルPCAに関する初の包括的ガイダンスである(Eur J Anaesthesiol 2026; 43: 486-498)。日本ではこの方法による分娩鎮痛はまだ一般的とはいえないが、硬膜外無痛分娩の安全体制があらためて問われている現在、「代替鎮痛法を導入するなら、どの水準の安全管理が求められるか」を考える上で、示唆に富む内容である。
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