ドクターズアイ 川口浩(整形外科)

AIが書き、AIが査読する医学論文

人間不在の医学ジャーナルpeer reviewの時代

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研究の背景:査読者側にも及ぶAIの影

 生成人工知能(AI)が医学論文の作成過程に急速に入り込んでいる。英文の校正や翻訳にとどまらず、論文構成の提案、統計解析、考察の作成、さらには査読者への回答まで、AIに委ねることが可能になった。私は長年、複数の医学ジャーナルでeditorを務めてきたが、ここ2~3年の投稿論文には、定型的な言い回し、過剰なまでに整った構成、学術性を欠く考察などから、AIの関与を感じることが多くなった。

 しかし、最近になって特に目立つのは、AIの影が著者側だけでなく、査読者側にも及んでいることである。投稿原稿の具体的な記述、図表、引用文献にはほとんど触れず、どの論文にも当てはまりそうな問題点を整然と列挙した査読報告が散見されるようになった。一見すると文章は流暢でもっともらしい。しかし、その領域の専門家が原稿を読み込んだとは思えない浅薄な指摘や、研究の本質を外したコメントも少なくない。AIの利用を文章だけから断定することはできないが、「この査読者は、本当に自分で原稿を読み、自分の頭で判断したのだろうか」と疑わざるをえないケースが増えている。

 こうした懸念は、私個人の印象にとどまるものではない。昨年(2025年)3月、Natureは「AI is transforming peer review—and many scientists are worried」と題する特集記事(Nature 2025; 639: 852-854)を掲載し、生成AIが査読過程にも急速に入り込みつつある実態に警鐘を鳴らした。

 そこでは、査読報告の中に「Here is a revised version of your review with improved clarity and structure」というAIの応答文が消されないまま残されていた実例も紹介されている。このマヌケな査読者がAIを文章の修正に利用したのか、それとも査読そのものをAIに丸投げしたのかは分からない。しかし、少なくとも査読報告の作成にAIが関与したことは明らかである。

 従来、生成AIをめぐる医学ジャーナルの議論は、主に著者側の利用に向けられてきた。AIの関与をどこまで開示させるのか、架空の引用文献や誤情報をどう防ぐのか、といった問題である。一方、査読者がAIを利用することについては、機密保持や利用の開示に関する規定こそ設けられ始めたものの、その実態は十分に把握されていなかった。

 今回紹介するのは、最近Heartに掲載された「専門家なき査読―AI支援査読が科学にもたらす代償」というタイトルの誌説である(Heart 2026年8月18日オンライン版)。査読者によるAI利用の実態を具体的な数字で示し、専門家の判断が失われつつある査読制度の現状と、その危険性に警鐘を鳴らしている。

川口 浩(かわぐち ひろし)

社会医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院・整形外科顧問

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。2023年から現職。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。整形外科専門医・脊椎脊髄外科専門医(日本専門医機構)、脊髄脊髄外科名誉指導医(日本脊椎脊髄病学会)。Peer-reviewed英文原著論文は370編以上(総計impact factor=2,120:2026年5月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の医療の「大樹」も「長いもの」も、科学的に公正なものであることを願っている。

川口 浩
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