寄稿

【令和8年熊本地震】亜急性期の循環器フェーズに注意!

済生会熊本病院脳卒中センター特別顧問 橋本洋一郎

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〔編集部から〕今年(2026年)7月28日、16時半ごろ熊本県を震源とする最大震度7の地震が発生した(気象庁が「令和8年熊本地震」と命名)。済生会熊本病院脳卒中センターで特別顧問を務める橋本洋一郎氏が、2016年に発生した平成28年熊本地震の教訓から、深部静脈血栓症(DVT)の発症予防の重要性を呼びかけている。

 

厚労科研・辻田班で発症予防ポスターを作成

 熊本大学循環器内科教授の辻田賢一を班長とする厚生労働科学研究「多彩な自然災害発災時における循環器病発症・再発予防に資する注意喚起ツールの開発」研究班(2023〜25年度、私も日本脳卒中学会のメンバーとして参加)は、研究成果の1つとして災害時の循環器疾患をはじめとする発症予防に関する市民向け啓発ポスター(図1)と、行政向けに対応すべき内容に関するポスター(図2)を作成した。

図1 市民向けの災害時の循環器疾患などの発症予防の啓発ポスター            

 

図2 行政向けの災害時の循環器疾患などの発症予防への対策に関するポスター

 年3月で終了した班会議であったが、7月28日に発生した令和8年熊本地震でこのポスターを活用することになるとは思いもよらなかった。

 このポスターの目的は、避けることのできる災害関連死対策である。日本循環器学会公式サイトからダウンロードできる(「災害時脳卒中・循環器病発症予防啓発ポスター活用のお願い」)。

 

平成28年熊本地震ではエコノミークラス症候群による死亡例が発生

 2016年に発生した平成28年熊本地震のときに、KEEP(熊本地震血栓予防)プロジェクトを立ち上げて、DVTを含む静脈血栓塞栓症(一般向け呼称:エコノミークラス症候群)を中心に循環器疾患対策の活動を行った。

 図3に、平成28年熊本地震で入院を要したエコノミークラス症候群の発生数を示す。累計51例のうち42例が車中泊で、車中泊はやはり危険であり、車中泊も避難所になることを前提にエコノミークラス症候群への対策を講じる必要性を実感した。

図3. 入院を要したエコノミークラス症候群の発生数(平成28年熊本地震)

 4月16日の前震に続いて18日の本震発災日に、車中泊をしていた住民がエコノミークラス症候群で死亡し、医療関係者の間に激震が走った。当日、済生会熊本病院が記者会見を開き、KEEPプロジェクトは益城町の避難所でエコノミークラス症候群の発症予防活動を開始した。マスコミは発症予防について積極的に報道するようになり、さらに当時の安倍晋三首相が記者会見で「エコノミークラス症候群」に言及して以降、発生数が急速に減少していったのだ。私はこのときに、マスコミの影響力の大きさを実感した。

 令和8年熊本地震では、発災直後よりNHKをはじめとするマスコミ各社が、エコノミークラス症候群に対する予防の必要性や予防法などに関する情報を積極的に発信してくれており、平成28年熊本地震のようにはなっていないようである。 

2016年時のDVT危険因子は年齢、震災後の睡眠薬使用、下腿腫脹など

 2016年4月19日〜5月31日に避難所などで行ったDVT検診において、初回受診者2,315例の危険因子の保有数とDVT陽性の関係を図4に示す。DVTの危険因子として、年齢(70以上)、震災後の睡眠薬使用、下腿腫脹、下肢表在静脈瘤が特定され、危険因子の数が増えるほどDVT陽性率が上昇した。高齢者と睡眠薬の使用が要注意となったのだ。ただし、大災害ごとに状況が異なるため、報告されているDVTの危険因子も異なる。

図4. DVTの危険因子保有数と陽性率との関係(平成28年熊本地震)

 

病院避難で人工呼吸器を付けた神経難病患者などが転院

 平成28年熊本地震で病院避難を行った病院のリストを示す()。

表. 平成28年熊本地震における病院避難実施施設

 当時、筆者が勤務していた熊本市民病院は前震で問題はなかったが、本震によって病院倒壊の恐れがあるとされ、病院避難となった。STROKE 2016(札幌市)が開催されている最中のことで、当時の神経内科医長の阪本徹郎が大学医局と連携して脳神経内科転院先を調整し、災害派遣医療チーム(DMAT)による搬送は夜間に行われた。私が12時間かけて札幌から熊本市民病院にたどり着いたときには病院避難が全て終了していた。外来診療しかできなくなった病院から3人の脳神経内科の医師が段階的に去っていき、2019年10月に新病院が開院するまで脳神経内科医は私1人となった。

 平成28年熊本地震後に阪本が異動した熊本南病院は、今回の地震で病院避難をすることになった。30例弱の人工呼吸器を付けた神経難病患者を含む多くの神経疾患患者の転院となり、困難であったと推測されたが、大学医局と連携して比較的スムーズに行われたと聞いている。

 以下に、災害時に病院および医療従事者がすべきことと、それぞれの訓練や講習の実施状況を挙げる。 

①傷病者の受け入れ:災害訓練を行っている

②避難所などへの医療支援:ほとんどが講習を受けていない

③全国から来る支援者の受け入れ(受援):ほとんどが講習を受けていない

④通常の医療体制をいかに早く復活できるか:事業継続計画(BCP)を策定する必要がある

⑤災害対策本部が発表するデータの収集

  また、支援・救援を受け入れる受援者自身に発生する問題や必要な支援内容を示す。5年間保存できる飲料水は自宅ではぜひストックしていただきたい。

①自宅の被災(食事・水、住まい、トイレの確保、家族の避難や疎開)

②実家や親族の被災→支援

③病院の被災の中での診療

④被災地への医療支援

⑤支援者の受け入れ(受援)

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