ドクターズアイ 鈴木重明(脳神経内科)

筋強直性ジストロフィーを根本から治療できるか

原因RNAを標的とする核酸医薬delpacibart etedesiran

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研究の背景:標的臓器に薬剤を到達させる技術が鍵

 筋強直性ジストロフィー1型(DM1)は、成人で最も頻度の高い筋ジストロフィーであり、国内の有病率は10万人当たり9~10人と推測される〔難病情報センター(2026年8月4日時点)〕。また、国内の筋疾患患者レジストリには遺伝学的に診断された976人が登録され、DM1が975人、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)が1人であった(J Neurol Sci 2022; 432: 120080)。東京都立神経病院では、2009~26年8月に137例のDM1患者を診療してきた(年齢中央値47歳、男性75例)。

 DM1は筋強直と進行性筋力低下に加え、心伝導障害、呼吸・睡眠障害、嚥下障害、若年性白内障、耐糖能異常・糖尿病、中枢神経症状を呈し、一部の悪性腫瘍の発症リスクも高い全身性疾患である。筋症状以外の合併症が先行することもあり、未診断患者は一般内科、循環器内科、呼吸器内科、眼科、内分泌・代謝内科など複数の診療科を受診しうる。

 疾患修飾療法がない現在、神経内科、循環器、呼吸・睡眠、リハビリテーション、栄養・嚥下、眼科、内分泌・代謝、臨床遺伝の各領域と、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなどが連携する全身管理がDM1診療の基盤である。

 核酸医薬は、脊髄性筋萎縮症に対するヌシネルセンN Engl J Med 2017; 377: 1723-1732)、遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスに対するパチシランN Engl J Med 2018; 379: 11-21)、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するビルトラルセンAnn Clin Transl Neurol 2020; 7: 2393-2408)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)1遺伝子変異を有する筋萎縮性側索硬化症(SOD1-ALS)に対するトフェルセンN Engl J Med 2022; 387: 1099-1110)などで実用化されている。

 一方、骨格筋を広く標的とする場合、細胞内への取り込みが課題である。DM1に対し先行して開発されたアンチセンス核酸は、筋組織内濃度が標的RNAを十分に減らす水準に達しなかった(Lancet Neurol 2023; 22: 218-228)。そのため、「標的臓器に薬剤を到達させる技術」が開発の成否を左右する。

 今回紹介するのは、Johnsonらによるdelpacibart etedesirandel-desiran、AOC 1001)の第I/Ⅱ相MARINA試験である(N Engl J Med 2026; 394: 763-772)。抗体を利用して低分子干渉RNA(siRNA)を骨格筋細胞内へ取り込ませ、DM1の原因遺伝子であるDMPKのmRNAとスプライシングへの作用を検討した。

 

【監修】鈴木 重明(すずき しげあき)

東京都立神経病院脳神経内科、副院長

1968年東京生まれ。慶應義塾高校から慶應義塾大学医学部に進学し、1993年卒業。ニューヨーク医科大学留学、慶應義塾大学准教授(内科学・神経)を経て、2025年4月より現職。重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン(日本神経学会)、がん免疫療法ガイドライン(日本臨床腫瘍学会)、スタチン不耐に関する診療指針(日本動脈硬化学会)の作成メンバー。都立神経病院では自己免疫ラボを立ち上げ、重症筋無力症、炎症性筋疾患、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象など自己免疫疾患の臨床研究を展開中。

鈴木重明

【執筆】川添 僚也(かわぞえ ともや)

東京都立神経病院脳神経内科医長/臨床遺伝科併任

1979年東京生まれ。1999年徳島大学医学部入学。免疫グロブリンクラススイッチの講義を契機に基礎医学に関心を持ち、福井清教授に師事した。ケンブリッジ大学生化学部門で2カ月間、蛋白精製を学んだ後、2003年に徳島大学大学院MD-PhDコースへ進学し、プロテオミクス医科学を専攻した。分子酵素学研究センター遺伝制御学部門で、NMDA受容体を介する神経伝達に関わるD-セリン代謝を研究テーマとし、D-アミノ酸酸化酵素の精製およびX線結晶構造解析に取り組み、2007年に医学博士を取得した。2009年に医師免許を取得。2011年より国立精神・神経医療研究センター病院で神経内科診療の研鑽を積み、2018年より東京都立神経病院に勤務。神経筋疾患、神経免疫疾患、神経変性疾患を中心に神経難病診療に取り組み、神経筋生検および遺伝カウンセリングを担当している。神経内科専門医・指導医、総合内科専門医・指導医、臨床遺伝専門医、神経免疫診療認定医。

川添 僚也
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